第二部 黒いガンダム
第五章 フランクリン・ビダン
第一節 救出 第三話(通算83話)
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カミーユが《ガンダム》のコクピットに取りつくと、中から技師長のアストナージが出てきた。アストナージは一年戦争で初代《ガンダム》の開発に加わっていた経験もあり、《ガンダム》の機付長も兼ねることになっていた。アストナージ曰く「近頃の奴らときたら、現物よりマニュアルに飛び付きやがる。技術屋が現物見ないで、どうするってんだ」――つまり、マニュアルのない《ガンダム》の機付長は敬遠されたということなのだが、カミーユから見ると、アストナージは新しいおもちゃを与えられた子供のようにはしゃいでいるだけに感じた。逆に言えば、なり手がいなくて喜んでやっているようにしか見えない。穿っていえば、若手が遠慮した…ともいえる。
「整備はバッチリだぜ、カミーユ」
「アストナージさん、信じてますよっ」
入れ違いにコクピットに飛び込んで、態勢を入れ換える。リニアシートにバックパックを咬ませて、するりと収まってみせた。こういう芸当は無重力ならではである。
バックパックアタッチメント、シートベルト、エアバッグ。操縦中のパイロットの命を守るのは狭いコクピットの中ではこの三つだけだ。リニアシートは電磁力の引力と斥力によってフロート構造になっており、それそのものが衝撃緩衝装置を兼ねているが、それで全てを吸収できるはずもない。たかが二メートル強――内寸は一メートル八○余りのインジェクションポッドがコクピットなのだ。狭く感じないのは全周天モニタが周囲の様子を映し出しているからで、錯覚に過ぎない。
リニアシートの無かった大戦中のMSのコクピットはもっと狭く、計器類で埋まっていた。パイロットは計器を見ながら敵と戦わなければならず、操縦技術そのものよりも熟練度がものを言った。そのため、計器に頭を強く打ち付けて失明したパイロットもいるという。エアバッグも改良はされているが、MS同士の格闘戦で受ける数十Gもの高負荷の前では気休めでしかない。そうした安全性の問題もあり、現在はリニアシートに附随するディスプレイボードのコンソールになっている。
酸素残量、予備電源、救急キット、気密チェックだけはパイロットが自分で確認しするしきたりだ。誰も整備不良で死にたくはない――というのは建前で、旧世紀の車から続く習慣が義務化しているだけのことだ。自分の見落としならば、責任を他人に押し付ける必要もない、というのが軍上層部の考えだった。空軍や海軍航空隊でも行われている出動前の儀式だった。整備兵に言わせれば「パイロットに機体整備が解るかよっ」となるのだが、口に出す者はいない。相手は士官で自分たちよりも階級も上で権限もある。陰口を叩くのが関の山だ。
ただし、パイロットは一応、機体のメンテナンスが一通りできなければライセンスを取れない。戦時中でなければエリートなのだ。ただ、目まぐるしく投入される
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