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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア
第二部 黒いガンダム
第五章 フランクリン・ビダン
第一節 救出 第一話(通算81話)
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 カミーユが食事のトレイを持って部屋に入った。本来は従卒――軍属か衛生班の兵士の仕事だが、旧知ということもあり、カミーユが任されていた。だが、中は薄暗いままで、ベッドで布団を被った男は()(じろ)ぎもしなかった。

「メズーン先輩、食事摂らないと体に悪いですよ……」

 返事はない。メズーンは帰投以来、誰とも口を聞かず、自分の殻の中に閉じ籠ってしまっていた。

 もし目の前で自分の母親が殺されたなら、自責の念に押し潰されて自分もこうなるのだろうか――そんな気持ちにさせるほど、メズーンの変わり様は酷かった。彼の行動の結果であるが故に、誰にも責任転嫁できなかったということも一因だろう。

 エマによって連れ戻されたメズーンは何事にも無反応・無関心になっていた。何処をみるでもない焦点の合わない視線が宙をさまよう様子は明らかに異常だった。脱力した彼をメカマンとエマがコクピットから引きずり出したのだが、呼び掛けにも返事をしなければ、叩いても見向きもしなかった。

 急ぎ医務室に運び込んで検査をしたが、身体に異常はみられない。「強度の精神的ショックによる自己放棄」とハサン医師は診断した。後天的な自閉症があるのならこう言う状態なのかもしれない。まるで生理現象すら止まってしまったかのようだった。

「先輩、俺、出撃任務なんで、行きますね」

 様子を窺うが、カミーユのその言葉にも反応はなかった。仕方なく、そのまま部屋を出た。

 カプセルに捕らえられていたのは、確かにメズーンの母親だったらしいのだが、誰も確認はできなかった。メズーンの様子から事実であると判断しただけだ。状況証拠だけである。監視を緩めるのは危険という意見がないではなかったが、監視は解かれることになった。

 しかし、《アーガマ》を旗艦とするこの独立戦隊の状況に大きな変化はない。依然としてティターンズに追尾されており、向こうには人質がいる。

 ならば潜入して解放できないか――という作戦がエマから提案された。つまり、エマの帰投に託つけて此方から誰かを送り込み、人質を救出しようというのだ。当初ブレックスも半信半疑だった。

 それは当然と言える。
 昨日までティターンズの正義を謳歌していた人間が突然協力するといわれても、信じきれるものではない。しかし、エマはそういうことではないと訴えた。

「私は民間人を解放したいのであって反政府運動に参加したいのではありません」

 これは信じられる言い様である。
 とにかくエマは必死だった。

 これ以上ティターンズに民間人を殺させない為には、人質を解放するしかない。バスクやジャマイカンは自分の正義を信じるタイプではなく、自分が正義というタイプであり、結果を得るために手段を選ばないと確信しているからだ。

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