第0楽章〜無題〜
第0節「キャロルのバースデー2021」
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を連れて山を登っていた。
「パパ、何処へ向かってるの?」
「秘密だよ。言っちゃったら、プレゼントにならないだろう?」
娘を連れての山登り。目的地を知らされていない娘は、頭に疑問符を浮かべながらも、素直に付いてきている。
昔は途中で疲れてはおんぶをねだって来たのに、今では汗を拭きながらも自分の足で一歩、また一歩と歩いている。
娘の成長を実感し、イザークは嬉しくなった。
「ねえ、パパ。まだ着かないの?」
「もうすぐだよ。そら、見えてきた」
山を登り、小高い丘を越えて、そしてようやく見えてきたのは……
燦々と、暖かな陽光に照らされた高原だった。
丘から眼下に見下ろす湖は、涼しい風に水面を揺らしながら、太陽をキラキラと反射していた。
「わぁ……キレイ……!」
「喜んでくれたみたいだね」
「うん!すっごく綺麗!山の向こうに、こんな場所があったなんて……!」
イザークは辺りを見回し、目を輝かせる娘を優しく見守る。
「パパのお気に入りの場所さ。いい薬草も生えてるし、何より心が落ち着くんだ」
「風が気持ちいい……このままここでお昼寝したくなっちゃうよ」
「ここはね、昔、ママと出会った場所でもあるんだ」
「パパとママが?その話、聞かせて!」
「もちろん。じゃあ、座ろうか」
興味津々、といった顔の娘の頭を撫でながら、イザークは草むらに腰掛ける。
娘もその隣に、ちょこんと腰を下ろした。
「パパはね、昔から探検するのが大好きだった。それは知っているだろう?」
「うん。パパのパパや、パパのおじいちゃんにいっぱい怒られたんだよね」
「ハハハ、そうそう。嫌な事があったらここに来て、ただぼんやりと空を眺めたりしてたんだ」
「それでそれで?」
「ある日、いつもの様に昼寝でもしようとここに来たら……先客がいたんだ。とても綺麗な人だった。森の妖精か何かだと、見違えたくらいにね」
「それが……ママだったの?」
「そう。それが、ママとの出会いだったんだ」
それから、イザークは娘に語り聞かせる。
最愛の妻と出逢い、たわいも無い話を交わして笑い合い、当たり前の恋をした事を。
普通に結婚して、普通の暮らしをして……母の顔を知らない娘へと、優しかった母親の人となりを。
「そっか……。ママは、本当に優しかったんだね」
「うん……。こんなパパの事を、心の底から愛してくれたんだ。勿論、キャロルの事もね」
キャロル。そう呼ばれたイザークの娘は、暫く湖の畔を見つめる。
その目に映っているものを、イザークも静かに見つめていた。
「よし!!わたし、決めたわ!!」
やがて、キャロルは勢いよく立ち上がった。
「どっ、どうしたんだいキャロル?」
突然立ち上がった娘
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