第二章
[8]前話
「しかしだ」
「それでもですか」
「どの様なあやかしかな」
「わかりませぬか」
「うむ、どうもな」
「ではです」
妻は夫の話を聞いてこう言った。
「根岸鎮衛先生に」
「近所の学者のか」
「あの方にお聞きすれば」
「そうだな、あの方はかなりの博識だ」
早良も彼のことは知っていて言った。
「ならな」
「この度のこともですね」
「ご存知かも知れぬ」
「そうですね、では」
「お聞きしよう」
こう言ってだった。
早良はすぐにその学者根岸のところに行った、面長で総髪の清潔な感じの人物でありその彼にこの度の話をすると。
彼はすぐに早良に話した。
「ご子息達をすぐにつむじ風から出してよかったです」
「そうなのですか」
「それは鎌ィ足の風です」
「あのあやかしの」
「はい、人を切るという」
「だから鼬の足跡があったのか」
「左様です、あと少し助け出すのが遅かったら」
その時はというのだ。
「ご子息達は切られていました」
「そうでしたか」
「よかったです、鎌ィ足はそうして切ることがあるので」
「用心が必要ですか」
「そうです、只のつむじ風と思えば」
「鎌ィ足の風もある」
「ですから」
それでというのだ。
「これからもご用心を」
「わかりました」
早良は根岸のその言葉に頷いて答えた。
「それではこれからは」
「その様に、あとこのことは書き残してよいでしょうか」
根岸は早良の申し出た。
「そうしても」
「はい、先生がそうされたいなら」
早良は根岸にこう返した、武士として立場が上であるので口調は敬語だ。
「そうされて下さい」
「それでは」
「その様に」
早良はいいとした、それを受けてだった。
根岸はこのことを書き残し後にこのことは随筆として残った、そしてだった。
この話は後世に残ることになった、つむじ風にもまた用心せねばならない。そこに何がいるかわからないのだから。あやかしは何処にでもいるものだ。
つむじ風の怪
2020・11・17
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