第一章
[2]次話
つむじ風の怪
江戸時代中頃のことである、江戸に住む武士早良宗衛門ある旗本の家に代々仕える彼が自分の部屋に学問に励んでいる時に。
ふと窓から見える空を見て妻にこう言った。
「今日は天気がいい、だからな」
「それで、です」
「宗一郎と宗次郎を連れてな」
二人の息子達をというのだ。
「そうしてな」
「遊びに行かれますか」
「武士もたまには遊ばねばな」
早良は妻に笑って話した、小柄だがしっかりした身体で眉は細いが形はいい。目は一重で髷は奇麗に結われている。
「だからな」
「それで、ですね」
「二人を連れてな」
「遊びに行かれますか」
「そうしよう、それで二人はどうしておる」
「今は道場に稽古に行っていまして」
剣術のそれにというのだ。
「もう少しで」
「帰って来るか、では帰って来ればな」
「すぐにですね」
「近くの野原に行ってな」
そうしてというのだ。
「遊ぶとしよう」
「では留守は」
「頼むぞ」
自分よりさらに小さく楚々とした顔の妻に言った。
「その間は」
「はい、それでは」
「二人が帰るまでまた学問に励もう」
こう言って書を読んでいった、そして。
息子達、自分によく似た顔の二人が戻って来てからだった。早良は二人を連れて野原に出た。そうして暫く二人の相手をしていたが。
やがて二人に自由に遊ばせ自分はそれを野原にあった岩の上に腰掛けて休みつつ見守った、その中で。
ふとだ、子供達がだった。
つむじ風に巻かれてくるくると回っていた、それを見てだった。
早良はすぐに異変を感じた、それですぐに子供達の方に駆け寄り。
そのうえで子供達の手を掴んでつむじ風から引き出した、すると子供達の服や手足に無数の獣の小さな足跡があった。
その足跡は鼬のものだった、早良はすぐに子供達を連れて家に帰ってから妻にこのことを話すと妻はすぐに言った。
「それは一体」
「わからぬ、わしが読む書には書かれておらぬ」
「左様ですか」
「あやかしだとは思うが」
それでもというのだ。
「どの様なあやかしかはな」
「わかりませぬか」
「あやかしの書も読んでおるが」
これも学問だと思ってだ。
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