第五章
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「何と素晴らしい曲だ」
「我々はあの作品のヘブライの者達と同じだ」
「国がない」
「その国を持つべきだ」
「我々の国を」
彼等は統一も思う様になった、そしてそれが実際に統一につながるのだった。
その気運が半島全体を覆う中でヴェルディはメレッリに話した。
「実は台本を貰った時はまだ」
「作曲をする気はなかったな」
「全く、それで家に帰ると」
その時のことを話すのだった。
「もう台本はテーブルの上に放り出しました」
「そうしたのか」
「ですがそこでたまたま台本が開いて」
そうしてというのだ。
「ある台詞が目に入りました」
「その台詞は何かね」
メレッリはヴェルディに鋭い目で問うた。
「一体」
「はい、まさにです」
ヴェルディも答えた。
「あの曲の台詞です」
「行け、我が思いよか」
「黄金の翼に乗って」
「まさにあの台詞か」
「あの曲のそれでした」
「その台詞を見てか」
「私は心が動きました」
音楽への意欲を取り戻したというのだ。
「まさその台詞で」
「その台詞の合唱曲が今イタリアを大きく動かしているが」
「私も動かされました」
「そして実は私もだ」
メレッリもというのだ。
「何しろあの台本を読んでいけると確信したからな」
「だから私に紹介してくれましたね」
「そうなのだからな」
「そういうことですね」
「まさにな、それでだ」
「これからもナブッコは上演されていきますね」
「そして歴史にも残り」
メレッリはさらに話した。
「特にあの曲はな」
「残りますか」
「そうなる」
こうヴェルディに語った、そして実際にだった。
その合唱曲ナブッコ第四幕の冒頭に歌われる『行け、我が思いよ。黄金の翼に乗って』はイタリア統一の中で歌われイタリア人達を支えた。そしてイタリア第二の国歌と呼ばれるまでになり今も歌われている。絶望し音楽から去ろうとしたヴェルディを再び音楽に戻しただけではない、まさに歴史に残る歌になったのである。
黄金の翼 完
2020・6・16
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