第一章
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黄金の翼
この時歌劇作曲家ジュゼッペ=ヴェルディは完全に打ちひしがれていた。妻も子供達も病で失くし作品も散々たる評価であり公演が途中で打ち切られる程だったからだ。それで彼はすっかり絶望してしまった。
家から出ることも殆どなくなり訪れた知人にも言った。
「もう音楽はだよ」
「止めようとかい?」
「考えている」
完全に意気消沈した顔で言う、顔の下半分を完全に覆っている濃い髭も今はすっかり乱れてしまっている。
「今は」
「そうなのかい」
「作品も失敗したからね」
「一日だけの王様だね」
「どうにもならない」
こう言うばかりだった。
「もう」
「やはり奥さんとお子さん達のことが」
「否定しないよ」
見れば目が死んでいる、声だけではなかった
「そのことが大きいよ」
「そうなんだね」
「うん、もう作曲はしないで」
それでというのだ。
「別の道で生きようと考えているよ」
「しかしだね」
知人はヴェルディに言った。
「メレッリ氏は君に」
「うん、何かとだよ」
「作曲を依頼しているね」
「契約破棄を申し出たけれど」
ヴェルディの方からだ。
「断られたよ」
「彼は君の才能を見出しているからね」
「それは有り難いけれど」
それでもというのだ。
「もう私はだよ」
「音楽から身を引いてだね」
「他の道で生きようと考えているよ」
「そうなんだね、だが」
「だが?」
「メレッリ氏もだが私もだよ」
知人はヴェルディにやや強い声で言った。
「君の才能は認めている」
「だからだね」
「今は無理でも」
それでもというのだ。
「気を取り直してくれるかい」
「無理だよ」
意気消沈している者は中々気持ちが上向かない、それは今のヴェルディも同じで知人の励ましの言葉にもこう返した。
「私には」
「そう言うのかい」
「うん、全くだよ」
それこそというのだ。
「本当にもうだよ」
「心が折れたんだね」
「どうしようもないよ」
「そうなんだね」
「うん、もう作曲はしたくないよ」
こう言ってだ、そしてだった。
ヴェルディは塞ぎ込んだままで筆を取ることもなく酒に逃げていた、そのメレッリからの依頼の手紙も読まなかった。
そうして年末までずっと塞ぎ込んだままだったふぁ。
ヴェルディはこの日の夕方外に出て飲みに行っていた、とにかく塞ぎ込みきっていて今は酒しかなかった。
それで街の中を歩いているとだった、ふと。
知人が言っていたメレッリ、スカラ座の支配人である彼と会った。メレッリはヴェルディを見るなりすぐに言った。
「神が私達を会わせてくれた」
「そう言われますか」
「私は今確信した」
メレッリはその
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