第一章
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ケージは何の為にあるか
国崎文太は仕事から帰って家のリビングに入りその隅に犬用のケージがあるのを見て妻の由里子に言った。
「ちゃんと買ってくれたか」
「ええ、ペットショップに行ってね」
それでとだ、妻は夫に答えた。
「買ってきたわ」
「悪いな」
「いえ、ただね」
妻はここで夫にどうかという顔で尋ねた。
「あなたふわりが入れられていたケージは」
「ああ、あれだけはな」
夫は強い顔と声で答えた。
「こっちには持って来なかった」
「そうよね」
「その場で壁に叩き付けて壊した」
「そうしたわよね」
「他のものは持って帰ったがな」
ふわりの前の飼い主が彼女を保健所に捨てたので粗大ごみに出した彼女の服やおもちゃや食べものを入れる皿やトイレはというのだ。
「しかしな」
「ケージだけは持って来ないで」
「壊してその場に放ってきた」
「そうよね」
「ふわりを閉じ込めていたものだからな」
そうした忌々しいものだからだというのだ。
「そうした」
「それでどうしてなの?」
妻はケージの傍に来てまじまじと見る夫に尋ねた。
「ケージを用意したの?」
「ふわりを閉じ込めてものなのにか」
「そうしたの?」
「使い方だ」
夫は妻の前に腰を下ろして答えた。
「それだ」
「使い方?」
「ああ、このケージは家だ」
「ふわりのお家なの」
「それだ」
「それに使うの」
「ご飯は別のところで出してトイレも用意するがな」
それでもというのだ。
「家は必要だからな」
「それでケージを買ったの」
「それで使う」
「ふわりのお家として」
「犬は元々穴に住んでるだろ」
「自分から穴掘ったりしてね」
「狭くところに住んで休むんだ」
そうした生きものだからだというのだ。
「ケージを持って来た、下に毛布とか敷いてもいいな」
「ふわりのベッドね」
「それもするか」
「あの、けれどね」
妻は夫に首を傾げさせながらまた尋ねた。
「本当にケージは」
「ふわりを閉じ込めていたな」
「あの人達そうしていたわね」
「子供が出来たらな」
自分達のそれがというのだ。
「もう家に来た日からだ」
「ふわりをずっとそこに閉じ込めていたわね」
「一日中な」
「お散歩も行かずに鳴いても無視して」
「それで保健所にポイだ」
「何度聞いても最低だけれど」
「犬どころか生きものを飼う資格も能力もない奴等だ」
一切、そうした言葉だった。
「あいつ等はな」
「そうよね」
「あいつ等は檻に使っていたんだ」
ケージをというのだ。
「そうしていたんだ」
「どう見てもそうね」
「しかし俺達は違う」
「お家に使うの」
「さっき言ったな、犬は狭いところが好きで
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