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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──
こゝろ
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て過ごしてしまった過去は──どうにも濃密そのものではあったのだけれど。

理子に貰った花束は《境界》に仕舞ってある。病室も適当に片付けておいた。キンジと白雪にも挨拶をして、老医には次があったら宜しくと伝えてきた。アリアにこれから帰ることを言伝る以外には、忘れ物とも言える忘れ物は無い。そこまで反芻して、安堵する。

後はいつも通り武偵校の制服を羽織って、帯銃と帯刀をして、いつも通り部屋に戻るだけ。ここ最近に勃発した騒動にも、既に終止符は打ったのだ。またしばらくは平穏だろう。

そんなことを幾らか考えながら、この五月空に降られている。威厳づけるわけでもなく、ただただ温和な陽気を浴びていたいだけに、今の自分の歩調は50ほどのBPMを刻んでいた。

五月空の温和な陽気も、東京湾の潮風も、今日だけは──今日だけは何故だか、当たりが強いような気がした。その理由は自分が、分かりすぎるほどに分かり切っていた。そうして、老医のあの一語一句を思い出せば思い出すだけ、湖底の感情が込み上げてくるのを感じていた。

アリアはそんな素振りを微塵も見せていなかった、というと、言い訳がましく聞こえてしまうだろう。こればかりは……そう、気が付けなかった自分が悪いのだ。表情、口調、挙止動作といった細部に至るまでの観察が行き届いていなかったこと──病み上がりの鈍さが関係しているのかは分からないけれども、少なくともあの時分では、その事実に気が付けていなかった。

本当は疲弊に疲弊を重ねていたはずだと思う。食事も排泄もしていない、なんて。ずっと、あの病室から、出ずにいた──自分の目の覚めるのだけを、待っていた、なんて。
そもそも、自分の怠惰に自分が対面していたならば、こんなことにはならなかったろう。アリアにここまでをさせることも、その原因の(たお)れたことも、無かった。

アリアを護れだの、或いは護りたいだの言っておきながら、結局は──ハイジャックの時みたく傷害と同様に、艱苦をも与えてしまっているのだろう。そうして原因はいつも、自分だ。
自分の不出来が(もたら)した結末は、いつも彼女に艱苦を与えている。自分が、自分の能力の無さを自覚して、自分に辟易して、果たして変わろうとすれば変われるのだろうか。

無味乾燥な日々に何が起こるとも思わずに、知らず知らずのうちに、誰の目にもつかないような奥底に仕舞っておいてしまったのだ。在るべき本家の由縁を。1度は手放したそれを、再び拾い上げるだけの覚悟が、果たして自分にあるのだろうか──。


「覚悟──」


変われるのだろうか、ではなくて、変えなければならない、のだ。


「──覚悟なら、無いこともない」


往来から見れば、この言葉はただの独り言のように聞こえただろう。けれども
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