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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──
こゝろ
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う、何がなしに至った。
「……あぁ、そうだ。個人的にもう1つ気になったことがあったんだ」老医は一通り笑い終えると、不意に何かを思い出したように、目を見開いた。
「ハーフらしい、随分と背の小さい女の子が居たでしょう。お名前は、確か……」
「神崎・H・アリアでしょう」
「うん、そうだそうだ。その神崎さんについて、君は彼女から何か言われたかい」
アリアについて、彼女の口から、何かを言われた……? キンジの次はアリアのことに関しての問いをぶつけてきたか、と暗に心の内で身構える。特段、何を言われた覚えもない。
重ね重ねの考慮も埒が明かないので、端的に返す。「いいえ、何も聞いてはいませんけれど」
「……そうかい。あの子はそういうことを、進んで言う子じゃないのかもしれないね」誰にともなくそう呟いた老医は、その穏和な顔を、更に穏和にさせていた。
「神崎さんはね、君を搬送する時からずーっと、君に付きっきりだったんだよ。僕らが君の処置をしている様子も彼女は遠目に見ていたし、『彩斗は大丈夫ですか?』って涙目で何度も何度も訊いてくるんだ。君が昏睡している間も、このベッドの傍らの椅子に座って、君の起きるのを待っていてね。朝から夕まで、片時もそこを離れずにだ。お手洗にも出ていない。何も食べていなかったように思うよ。ずーっと、この部屋から出ずにいたんだ。ただ、君の目の覚めるのだけを待っていてね。『彩斗の目が覚めた時に、アタシが居なきゃ』って、そう言ってたよ──」
瞬きをするのは2度が限界だった。無性に震えてしまう手で額を押さえて、やっとの思いで目元を隠しながら、老医の告白を聞いていた──それこそ彼女が目前に居たならば、すぐにでも逃避衝動に駆られていたことだろう。誰にも気取られずにいることは不可能だろうと、我ながらそう思ってしまうほどには、この泡沫は止め処の無いままに、玻璃として肉流を彩った。目蓋が荒れて、果ては滲みてしまうだろうことなどは、思いも付かなかった。
そうして咽喉も、震えていた。老医に碌な挨拶さえも出来ないままに、この虚室を満たしましょうと言うばかりに、誰も人が居ないのを良いことにして、そのまま泡沫の内に見える随喜に暮れていた。咽喉の声帯を無理矢理にでも震わせたならば、こうして押し留めている感情が、嗚咽と混じり混じって、1度に吐き出されてしまいそうな気がしたから──。
◇
それから数時間ほどして、ようやく湖面は平穏を取り戻せたように思う。けれども、その湖面の奥底──湖底では、未だに感情の権化が浦波となって揺れ動いていた。
そのことを誰にも気取られないようにしながら、この武偵病院の敷地から足を外す。身を置いたのは、たかだか1日と数時間だけだった。とはいえ、その1日と数時間だけでも、こうし
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