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私はインフルエンサー・頭フサフサ陽之介
私はインフルエンサー・頭フサフサ陽之介
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う。彼女なら私を裏切ることはない。 
 電車で三駅。この状況では電車には乗れないため歩くことになるが、やむをえない。

 だが、そこで背中から声がかかった。

「そこのかた、今ちょっといいですか?」

 警察……!

 考える前に、足が動いていた。
 走る。逃げる。

 ちょうど横断歩道で青が点滅しているところに滑り込めた。引き離せたはずだ。
 人が多い通りは駄目だ。路地裏を通って行こう。

「おめえどこ見てやがる」

 路地裏に入ったところで、いきなり白いスーツの男に衝突してしまった。
 怒鳴られ、顔に拳が飛んできた。
 顎と頬骨に鈍痛が走った。血の味がしたので口の中を切ってしまったようだ。

 だが今はそんなことを気にしている場合ではない。
 逃げようとした際に服を思いっきり掴まれ、縫製の糸がブチブチと切れる音がした。それでもその手を振りほどき、逃げる。

 後ろから「謝罪ぐらいしろや」の叫び声が聞こえたが、もちろん無視の一択。
 走った。

 見知らぬ路地裏。途中から方向が合っているのかもわからなくなった。
 それでも感覚を頼りに走り続けた。
 なんとなく、彼女の部屋までたどり着けるだろうという自信はあった。

 これまでの人生、要所要所で運はいつも自分にあった。今回だって――。
 私はインフルエンサー、頭フサフサ陽之介。



 * * *



 着いた。彼女のマンションだ。
 服はボロボロになっていた。靴もいつのまにか黒く汚れている。顔も少し腫れているかもしれない。女性に大人気というこのおしゃれなマンションに、明らかにそぐわない格好になっていた。

 だが問題はない。
 彼女も私の信者の一人だったが、交際が始まってからはイベントで助手的なはたらきもしてくれていた。
 インフルエンサー仲間ではないので私に対する嫉妬心もなく、優秀な人間ゆえに損得勘定もしっかりとできる。自分を拒絶することはないだろう。

 エントランスでインターホンを鳴らす。

「あ、陽之介さん? 遅かったね」

 アナウンサーのような凛とした声とともに、エントランスホールへのガラス扉が開かれた。
 やはり、彼女は違う。

 エレベーターで上にあがって彼女の部屋の前に立つ。
 と同時に、「どうぞ」という声とともに玄関のドアが開かれた。
 メイクはしていなかったが、相変わらずの艶のあるまっすぐな黒髪に、透き通るような白い肌、相変わらず整った顔だった。

「すまない。世話になる」

 警察に追われていることなどはあえて話さず、中に入った。

「残り物で作ったやつだけど」という温かい食事に、汚れた体を浄化するシャワー。
 ようやく、一息つくことができた。

 食
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