第三章 リベン珠
第16話 いざ、月の世界へ
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と共に自分の足でここまで来たが故に、彼女が肌に感じるその意味合いは違うのである。
気を引き締めていかねばならない。今回ばかりは勇美は真剣になってまだ見ぬ領域への入り口に足を踏み入れるのだった。
◇ ◇ ◇
そして勇美達は秘密の通路の最後の扉を潜り、とうとう目的の場所へと辿り着いたのである。
そこは青く光る水晶で構成された部屋であった。その見事な芸術的な光景に勇美は言葉を失う。
「綺麗ですね……」
そして、気付けば勇美はそう呟いていたのだった。無意識にそうしてしまう辺り、この部屋には言葉に出来ない何かが感じられるのである。さすがは月の世界であるが故であろうか。
それはさておき、鈴仙にはやっておかなければならない事があるのだ。その旨を勇美に伝える。
「それでは勇美さん、少し時間を取らせてもらいますね」
「あ、分かりました。入り口を閉じるんですよね」
勇美の指摘通りであった。未だに通路の扉は開き、怪しくその彩色をたぎらせているのだ。このような代物を放っておく理由はないだろう。
そして、鈴仙は振り替えると、入り口を開く時と同じように精神を集中して念を送り始めたのである。それによりまたしても彼女の長い耳がぴくぴくと動き、愛らしい光景が繰り広げられていた。
(やっぱり触りたい……)
そう思うだけで実行には至らなかった勇美は、自分で自分を褒めていいだろう。
相方がそのような葛藤と偉業を成し遂げている中で、扉を塞ぐ為の水晶の引き戸は閉まり、無事にその空間が存在する事の痕跡を隠したのであった。
「お待たせしました。それでは行きましょうか」
「そうですね」
事は一刻を争うのだ。二人はその言葉を交わすとすぐに地表を目指した。
◇ ◇ ◇
「鈴仙さん、ここは……」
「ええ、月の都で間違いない筈です……」
勇美の疑問に鈴仙が答える通り、確かにここは月の都で間違いないだろう。
何故なら、伝統的な中国や日本のような外観をした町並みのここは、鈴仙が記憶している月の都の概要そのものであるからだ。幾ら彼女がそこから離れて長い時間が経つとはいえ、自分が生まれ育ったかつての故郷の事を忘れる訳がないのだ。
それでも鈴仙が勇美に対する返答が歯切れが悪かったのには理由がある。
確かにここは月の都であった。だが、断じて鈴仙が見知った馴染みのあるそれではなかったのだから。
率直に言うと、月の都全体が青白く染まっているのだった。まるでその色彩が漂白されてしまったかのように。
そして、辺りはそこはかとなくひんやりと冷たいのである。例えるなら……。
「電源を抜いた機械みたいですねぇ」
それが勇美が今の現状に感じた感想であった。対して鈴仙は勇美にこう言う。
「勇美さん、今何が起こっているかは分かりませんが、『
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