第百二十五話 誘い出しその六
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「幾ら何でも」
「幾ら龍造寺殿が血気盛んでも」
「信じられませぬ」
「それがしも最初目を疑いました」
斥候は三人にも話した。
「まさかと思いですが何度見ましても」
「龍造寺殿であられたか」
義弘が問うた。
「影武者ではなく」
「影武者ではありませんでした」
それでもなかったというのだ。
「例えそうであってもあれだけの巨体を完全にはです」
「真似られぬか」
「しかも風格が違い龍造寺家の軍勢全体を見ても」
そうしてもというのだ。
「それでもです」
「あそこまでの巨漢の御仁はか」
「おられませんでした」
「ではか」
「間違いなくです」
先陣で輿に乗る者はというのだ。
「龍造寺殿ご自身です」
「そうなのか」
「一体どういうおつもりか」
歳久もわかりかねていた、言葉にそれが出ていた。
「この度は」
「それがどうにもです」
「お主もわからぬか」
「はい」
斥候は歳久に戸惑いつつ答えた。
「聞いたこともないこと故に」
「総大将ご自身の先陣なぞな」
「出陣はありましても」
「後ろの本陣にいるもの」
総大将はとだ、歳久は言った。
「そうである筈だが」
「我等をご自身で潰すおつもりか」
家久は腕を組んで言った。
「それで、であろうか」
「そうでしょうか」
「龍造寺殿は短気であられるからな」
こう斥候に話した。
「だからな」
「それで何かの弾みで癇癪を起され」
「そしてな」
「ご自身が先陣を」
「そうであろうか」
「しかしまことにです」
「龍造寺殿ご自身がであるな」
斥候に確認を取った。
「まことに」
「先陣でして」
「そうしてか」
「軍勢の足もです」
行軍の速度もというのだ。
「かなりのものです」
「速いか」
「それも全軍がです」
隆信が率いている先陣だけでなくというのだ。
「まさに脇目を振らずです」
「その様にしてか」
「こちらに来られています」
「兵は神速を尊ぶという」
ここで義久が言ってきた。
「まさにな、しかしな」
「はい、それでもです」
「それが拙速ならば愚です」
「それは負けのもとの一つです」
弟達がすぐに応えた。
「ですから足が速いのはいいですが」
「それが焦ったりして脇目を振らないのなら」
「こちらとしましては」
「狙い目であるな、伏兵も見抜けぬな」
義久は鋭い目で述べた。
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