第一章
[2]次話
孤独と不安からの解放
その猫、出産を終えたばかりである銀と黒の虎模様の青い目の猫を見てリア=マニエル太って眼鏡をかけた中年の女性は言った。
「この娘引き取っていいかしら」
「リアさんが引き取ってなんだ」
「そうして育てるんだ」
「ええ、そうしていいかしら」
こう言うのだった。
「この娘はね」
「そう言うなら」
「お願いするわね」
「この娘も家族が必要だし」
「それなら」
「ええ、けれどね」
アメリカワシントン州アーリントンの動物の保護施設であるパーフェクトパレスに所属しているリアはここでこうも言った。
「四十六匹もね」
「一度に保護するとは」
「今回は大掛かりですね」
「この全部の子に里親を探してあげないと」
「それが私達の仕事ですし」
「そうね、それでこの娘はね」
その猫を見てまた話した。
「私が引き取るわね」
「わかりました、ですが」
「この娘が特に心を閉ざしていますね」
「そんな感じですね」
「見ていると」
「そうね、この娘はね」
見れば隅っこにいてこちらを警戒する目で見ている、決して近寄ろうとはしないところに彼女の過去がわかった。
「随分酷い目に遭ったみたいだから」
「他の子達と同じですが」
「この娘は特にだね」
「この娘が心を開くのは難しいかも」
「時間がかかるかも知れないですね」
「けれどいいわ」
決心している、そうした返事だった。
「問題はこの娘が心を開いてくれるかじゃないわ」
「というと」
「何が問題ですか?」
「それで問題でないのなら」
「この娘が幸せに暮らしてくれることよ」
このことが問題だというのだ。
「これまでの暮らしと違って」
「落ち着いてか」
「それでなんですね」
「だからですか」
「引き取ってくれますか」
「そう、心を開いてくれたら嬉しいけれど」
それでもというのだ。
「まずはね」
「幸せになってもらう」
「そのことが大事だから」
「大切に育ててくれるんですね」
「この娘を」
「そうするわ。もう二匹いるし」
リアの家にはというのだ。
「その娘と一緒にね」
「わかりました、ではお願いします」
「この娘はリアさんに渡すわね」
「幸せに」
この猫が生んだ子猫達も他の猫達もそれぞれ心ある人達に引き取られていった、そうしてこの猫はシンフォニーと名付けられてリアの家に入った。
リアの夫であるラリー、顎髭を生やした優しい目の彼はそのシンフォニーを見て心配そうな顔になって妻に言った。
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