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猫も二十歳になると
第二章

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「かなりよ」
「もう百歳とかそんな感じか」
「九十歳かしらね」
「九十か」
「もうそこまでいったらね」
「確かにかなりだよな」
 息子は腕を組んで考える顔になって述べた。
「本当にな」
「そうでしょ」
「そうか、認知症かも知れないか」
 夫は自分から言った。
「それじゃあな」
「ええ、それだとね」
「家族としてそのことを頭に入れてな」
「そうしてね」
「一緒にいないとな」
「そう、ゴンタは家族でしょ」
「もう二十年一緒にいるしな」 
 息子が生まれる前からだ、だからこそ夫婦にとっても息子にとってもゴンタは掛け替えのない存在になっている。もうその絆は絶対のものになっている。
「何があっても」
「これからも一緒よ」
「認知症が何だ」
 夫の言葉は強いものだった。
「人間だってなる、そりゃ猫だってなる」
「そうよね」
「鳴いたってそれが猫だ」
 それも当然だというのだ。
「当たり前だ、例え朝から晩まで鳴いてもな」
「それ位はね」
「何でもない、じゃあな」
「ゴンタとはね」
「これからも変わらない」
 確かな言葉だった、そうしてだった。
 息子もだ、こう言った。
「病気になったとかぼけたとかで家族捨てるとか人間じゃないよな」
「そうだ、生きものも最後まで一緒にいないとな」
「それは絶対のことでしょ」
「そうだよな、自分の都合が悪くなったら捨てるなんて奴はな」
「信用出来ないだろ」
「それは自分だけの人ってことよ」
「そうだよな、俺もそんな奴嫌いだよ」
 これ以上はないまでに強い返事だった。
「だからそんな奴には絶対になりたくないからな」
「ゴンタと一緒だな」
「これからもね」
「ああ、一緒に行こうな」
 確かな声で言ってだった、彼がゴンタに晩ご飯をあげた。それを見たゴンタはすぐにご飯と水の方に元気よく駆けていってだった。
 そうして元気よく食べはじめた、妻はその彼の姿を見て言った。
「ちょっと鳴く位。それで認知症になった位のことね」
「猫も歳を取ったらそうなる」
「むしろ当然だよな」
「そう受け止めてな」
「これからも一緒にいような」
「そうしましょう、むしろあと三十年生きて」 
 五十年というのだ。
「猫又になって欲しいわよ」
「家族だからな」
「本当にそれだけ生きていて欲しいよ」
 最後は家族三人で笑って話した、そうしてだった。
 食べた後でゴンタはソファーの上にジャンプして上がって毛づくろいをすると丸くなって寝た。三人でその彼を見たままだった。その顔は笑顔のままであった。


猫も二十歳になると   完


                   2021・2・17
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