第六百二話 梅干しの魔力その二
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「この人が考えだしたんだ」
「そうだったの」
「ちなみにこの人にとっては奮発した」
「ご馳走だったの」
「そうだったんだ」
その日の丸弁当がというのだ。
「これがね」
「何でもないものじゃないのか」
テンボはトムにこう返した。
「白いご飯に梅干し一つだと」
「いや、乃木大将って普段は稗を混ぜたご飯を食べていたから」
「稗か」
「昔のね、雑穀と呼ばれていた」
今のかなり改良されて美味くなっている稗と違ってというのだ。
「それを入れたご飯をね」
「食っていたのか」
「だからね」
それが為にというのだ。
「その白いご飯もね」
「あの人にとってはか」
「奮発していたんだ」
「そうだったか」
「当時の日本では白いご飯がご馳走だったから」
そのステータスであったのだ。
「それで軍隊も何時でも白いご飯が好きなだけ食べられる」
「それが宣伝だったか」
「誰もが武士になれてね」
このことと共にというのだ。
「そうだったから」
「だからか」
「日の丸弁当はご馳走だったんだ」
乃木大将が言うにはだ。
「軍隊では普通に食べていてもね」
「稗飯と比べるとか」
「本当にね」
「乃木大将は立派な人だったな」
武人としてその姿はこの時代でも評価されている、もっと言えば指揮官としての能力も堅固だった旅順要塞を兵員も弾薬も不十分で多くの損害を出しながらも五ヶ月で攻略したことと奉天会戦での日本の勝利を決定付けた奮闘から再評価されている。
「それは俺も知っている」
「そう、それでね」
「日の丸弁当を食べていたか」
「そうだったんだ」
「成程な」
「今じゃね」
ジャッキーはトムに考える顔になって言った。
「日の丸弁当はあっても」
「他のおかずも一杯あるね」
「ええ、白いご飯の中に梅干しがあってもね」
「それだけじゃないね」
「もう他のおかずがね」
それこそというのだ。
「一杯あるけれど」
「乃木大将はそれでね」
「奮発だったのね」
「そうだったんだ」
「閣下と言われるのなら贅沢出来たのに」
「それはしなかったんだ」
若い頃は放蕩もしたがやがて行いをあらためたのだ。
「凄いね」
「そうね」
「あの人は息子さんを戦死させてしまったな」
テンボはこの話をここでした。
「そうだったな」
「旅順でね」
「それもお二人共な」
「そのことはね」
トムは真剣な、暗さも持った顔で述べた。
「ちょっとね」
「出来ないな」
「息子さん達を特別扱いせず」
そのうえでだ。
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