春谷舞は愚痴りたい
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緒川慎次という男が、任務の為に身も心も捨てる“忍”として超一流であることを。
そんな彼が、封じられないほどの想い。
……それほどの、ものならば。
彼を誰より近くで見続けて、誰より想っていると自負する自分が認めなくて、どうする。
その苦しみも辛さも知っている自分が、その想いを後押しせずして、誰がする。
だから。
だから、人生でこれ以上ないほどに辛く悲しい、そんな決断ではあるけれど。
春谷舞は、緒川慎次への想いを。
その想いが、かの歌女に届くまで、固く封じよう。
そして届いた暁には、自らの手で摘み取ってみせよう。
だって、自分の心だから。そうしてあげることが、一番良いはずだ。
それに、この決断もあまり非現実的ではない。
自覚こそしていないが、翼お嬢様も慎次様を誰より信頼し、心を預けていることは確か。
ならば立場さえも越えて、彼らの旋律は重なるかもしれない。
むしろそうなれるように自分が全力でフォローしよう。手助けしよう。
緒川慎次が、風鳴翼という“剣”の鞘になれるよう。自分は、二人を支える台座となろう。
そう、決めて。
………決めたの、だが。
「どぉ〜〜〜〜してあの二人は揃ってあそこまで奥手なんですかねぇッ!」
そんな一言を、グラスと一緒にテーブルに叩きつける。
今日も彼女はスマートに、クールに慎次の補佐としての仕事を全うした。
その反動を吐き出すように、並々と酒の注がれたグラスを片手にぶつくさと愚痴を垂れ流す。
場所は歌舞伎町の一角、ホストクラブ『絶対隷奴』。
もちろん、失恋したからとてホストに入り浸りになってるわけではない。
彼女の目的はただ一人、ここでホストとして働く一人の男。
その男は現在、舞の隣で絶賛苦笑い中だった。
「ねえ、そうは思いませんか捨犬様っ!?」
「まあまあ、春谷ちゃん少し落ち着いて。それとここでの俺の名前、亜蘭だからね?」
緒川捨犬。
遺産を含む一切の奥義の継承を行わない事を条件に、古い因習に縛られない自由を獲得した緒川家の三男坊は、その優れた外見を活かし、このクラブで働くNo.4ホストとなっていた。
当主の長男や諜報員の次男と、形は違えど夜の闇に生きている捨犬。
そんな彼は、舞の愚痴にいつものように付き合っていた。
その内容はもちろんのこと、仕事の内容……ではなくて。
聞いての通り、なかなか進展しない元想い人とその主人のことである。
「あの二人はほんっとぉにもぉ奥手でしてね! 一歩踏み込んだかと思えば三歩戻るみたいな感じでぇ!陰ながら色々サポート
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