春谷舞は愚痴りたい
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も接していくことになる。
凪ぐ風のような人だ、と幼い私は思った。
決してそよ風のようにあやふやな存在だ、という意味ではない。
むしろその逆。その笑顔を見ると、自然と気が緩むような人柄と感じた。
穏やかな気性、それでいて確かな”緒川“としての素質と、気配りの上手さ。
幼き頃から僅かにだが頭の資質を見せていた長兄総司様や、ややマイペースな三男の捨犬様……。
正直に言ってしまえば、彼らよりずっと側にいると安心できた。
もし主として仕えるならばこの人がいい、とさえ幼心に感じたものだ。
そんな二人に比べて、慎次様は自らを一番目立たないと称した。
だが、正反対な兄と弟のどちらとも上手く付き合うのを見ていると、私から見れば慎次様こそ最も忍≠轤オいのではと。そう思えた。
こうして考えてみると、最初は純粋な尊敬の念であったのかもしれない。
同い年ということもあり、慎次様といる時が私にとって一番安心する時間だった。
それは成長し、心身ともに少しずつ成熟していくにつれ、並行する形で変化していく。
一般に、恋とは自覚することにきっかけが必要であるという。
あくまで広義的な考えの一つだが、生憎と私にそのきっかけはなかった。
それは幼馴染という、長い時間の中で慎次様を見てきた立場だからこそだったのだろう。
故に少しずつ、少しずつ積み重なるように。憧れは、乙女としての心の静寂と共に変わっていった。
また、こうも広く言われる。
関係が近すぎるほど気付かない感情もある、と。
こちらに関しては少しばかり、当てはまるかもしれない。
いくら幼馴染、同い年とは言うものの、慎次は仕えるべき頭領の家系。緒川の家は当然ながら総司様が継ぐことになったとはいえ、立場としては目上。
その意識と幼少期から一緒にいたことが災いして、徐々に形を変える想いは自覚しづらいもので、育つのもゆっくりであれば花開くのもゆっくりだった。
ただ、促進剤はあった。
学校生活だ。
学校は学習の場という面の他に、集団生活による精神の熟成を促す側面を持つ。
多くの人間が集まるその中において、改めて私は慎次様の人間性の希少さを知る。
幼少から学んだスキルを十全に活かし、その場に馴染む手際は見事の一言。
童心ではすごい、で完結した慎次様への印象は、心の成熟と共に格好いい、へと変わっていく。
そうして小学生、中学生、高校生と大きくなるにつれ。春谷舞の中で、緒川慎二という男性は、同世代の異性の中で誰よりも魅力的な相手になった。
とはいえ、前述の通りに立場を気にかけた私が想いを打ち明けることは叶わずに。
やがて高校生活が半分を過ぎた頃に、
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