最高の陽だまり《呪い》
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「響?」
その声に、響ははっと我に返る。
今自分がいるのは、見慣れた私立リディアン音楽院の学園寮。クリーム色の空間に、どことなく懐かしさを感じていた。
「どうしたの? 響」
そう声をかけてくれる、ボブカットの少女。頭の後ろのリボンが特徴である。響の最高の陽だまり、小日向未来の名前を忘れることなど、どうしてできようか。
未来は、ソファーに座っている響の顔を覗き込む。その顔を見返すだけで、響は魂を奪われたかのように見つめることしかできなくなっていた。
「未来……?」
「どうしたの? もしかして、具合悪いの? 今日学校休んだ方がいい?」
未来が響の頭を撫でる。響は「あ……う……」とまともな言葉を発することができなかった。
「響?」
「あ、うん。だ、大丈夫」
響は努めて笑顔を作る。
未来は少し不安な表情を見せながら、響の腕を取った。
「そろそろ行かないと遅刻するよ? どうする?」
「う、うん……行くよ……」
果たしてこんな日常だっただろうか。
だが、響は未来に引っ張られ、そのまま春の道を真っすぐ進んでいった。
それは、見慣れた街の風景だった。
そして、もう見ることのない街の風景だった。
「響、本当に大丈夫? やっぱり今日は休んだ方がいいんじゃない?」
「大丈夫だよ。へいきへっちゃらだって」
「そう……でも本当に、無理しないでね」
未来はそう言って、少し響の前に出る。
「いくら今日がクリスの卒業式だからって、響の体も大事だよ?」
「クリスちゃんの……卒業式?」
響は、未来の言葉を確認するように繰り返す。見かねたのか、未来は「しっかりして」と響の肩をたたいた。
「今日クリスの卒業式だよ? 昨日まであんなに『卒業しないで〜』ってクリスに泣きついていたの、忘れたの?」
「うん……」
クリス。クリス。雪音クリス。
これまでも苦楽を共にした名前。忘れるはずのない名前。
だが、なぜか遠く感じる名前だった。
「ねえ、未来……」
「どうしたの?」
未来は振り向きざまに、響に笑顔を見せる。彼女のその顔を見ただけで、響の内側が暖かく満たされていくようにも思えた。
「ねえ、もしかして私って、クリスちゃんとここ最近、会ってなかったりする?」
「何言ってるの? 響。毎日会ってるじゃない」
未来は何てことないような顔で言った。
響は少し口どもりながら、「そ、そうだよね」と応える。
「切歌ちゃんと調ちゃんはもう学校に着いてるそうだよ。切歌ちゃん、まだ始まってもいないのに泣き出して大変だって」
「ああ……想像つくなあ。『先輩、卒業なんてしちゃだめデス』って言いそう」
「翼さん
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