第101話『予選F』
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女子だから、文化系っぽいから、階段を登るだけなら負けないと、そう油断していた伸太郎に最悪の現実がつきつけられる。
なんと、彼女の足元から植物の蔦が伸び始め、彼女を上へと押し上げ始めたのだ。
「やべぇ!」
「お先失礼します〜」
伸太郎は階段を登るペースを上げるが、蔦の伸びる速度の方が圧倒的に速く、すぐに花織は伸太郎を追い越してしまった。
「嘘だろ……?!」
せっかく掴んだチャンスが、音を立てて崩れていく。無理だ、あれに敵うはずがない。階段でエレベーターに速さでどう勝てと言うのか。
「ここまでか……!」
悔しいが、少なくとも彼女には勝つことはできまい。まだ扉の先にゴールがあるという可能性を否定し切れてはいないが、望み薄だろう。天井に先に辿り着いた方が勝ちと言っていい。
伸太郎はガックリと肩を落とし、その場に立ち止まってしまう。せっかくここまで登ってきたのにと、階下を見やった──その時初めて気づいた。
「……え?」
一番下の地面、そこに『大きな瞳』が描かれていたことに。
*
森の中で響く金属音や破壊音。それらは全て、この"組み手"という競技によって引き起こされている訳だが、とある場所では一際大きい音が木霊していた。
「──ッ!」
「ぐっ……かはっ!」
今しがた、勢いよく吹き飛ばされて幹にぶつかったのは緋翼だった。口から空気を吐き出し、しばし咳き込む。
そんな彼女の隙を逃すまいと、一つの影が素早く迫った。
「くっ……!」
しかし間一髪、緋翼はその場を飛びのいて回避する。すると衝撃音と共に、さっきまで緋翼がもたれかかっていた幹がへし折れていく様が見えた。
そんな荒業を成し遂げたのは、牙を見せながら気持ち悪いくらい口角を上げる、人型のモンスターである。簡単のため、ここでは仮に『ゲノム』と名付けるとしよう。
ゲノムは始めに着ていたロングコートを既に脱ぎ捨て、全身黒タイツなのかと思うほどに真っ黒なボディを晒している。だがあくまで人型というだけで、髪もなければ、目も鼻も耳も見当たらない。付いているのは鋭い牙の並んだ大きな口のみ。それはまさに、化け物と呼ぶのに相応しい姿だった。
「一体どうなってんのよ。こいつのパワーもスピードも桁外れ過ぎるんだけど……」
緋翼の言うように、ゲノムは人型であるにも拘らず、身体能力は人間のそれを遥かに上回っている。やはり、このモンスターが10Pt級だというのは疑いようのない事実だろう。正直、緋翼自身も勝てるビジョンが全く見えない。むしろ、どうやって逃げるかを考えているくらいだ。
「どうにか足止めできればいいんだけど……」
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