episode13『せかい』
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初めて、ヒナミは。
逢魔シンという少年を、理解した。
「ともよ、待ってて」
「――?」
ゆっくりと、立ち上がる。
炎の海と化した聖堂を渡り歩く。無論炎は容赦なくヒナミの肉体を焼くが、未契約の状態とはいえ魔女の肉体は魔鉄の加護の片鱗に護られている。苦痛を感じはする、が、前に進めない程ではない。
歯を食いしばって、彼の下へと。
「……ひな、み?」
逢魔シンという少年は、本当に強いんだな、と、ずっと思っていた。
彼はいつだって“皆の優しいお兄ちゃん”で、新しくやってきたヒナミに対してだって常に気をかけてくれていた。皆と仲良く過ごせるように、ヒナミの恐れるトラウマからだって守れるように。
ヒナミだけじゃない、孤児院に住まう子供たちや、智代の事だってずっと気に掛ける事を忘れない。皆が幸福にすごせるように、ずっと動き続けていた。
優しい少年なんだな、と、そう思っていた。
「違うんだ」
彼は、分からなかったんだ。
化け物の自分が生きる理由が、怪物の己が存在する価値が。
自分を家族と呼んでくれる人がいた、大切だと思える人達が出来た。彼はそんな人たちを、罪業の鬼を受け入れてくれた世界を守らねばならない、と思った。
“守らなければ、自分が生きている理由が分からなかった。”
必死だったんだ。
自分の存在意義が欲しかったのだ。
生きている意味が欲しかったのだ。
とっくの昔から彼は、そうすることでしか生きていられないぐらいに、破綻してしまっていたんだ。
『――。』
一匹の鬼が、ヒナミを見ている。
一人の魔女が、シンを見ている。
まだ、一つだけ分かっていない。
たった一つだけ、分かっていない。
彼の世界を、ヒナミは知らない。だから知りたい、彼の抱える世界を。
……ああ、逆だったんだ。すべて、何もかも。
「応えて、シン」
孤独のなかでもがく、罪に呑まれた男の子。
誰よりも助けを欲していたのは、彼だ。
――掘削許可。
もしも、仮に運命というものがあるんなら。
きっと、私は。
「わたしの世界は、あなたのもの」
あなたを救うために、産まれてきた。
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