episode13『せかい』
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定形の魔鉄は、まるで竜巻の軌跡を描くように激しく辺りを旋回する。
『ぼ、くノ』
随分とくぐもった声だ、シンに纏わりつく魔鉄の鎧は彼の口内にまで侵入し、発声に難が発生しているように思える。ぷち、ぶち、という音は彼の頬辺り――というか、魔鉄が口の端が裂いて強制的に開口を促している。
弾け飛んだ筋繊維と皮が、べろんと魔鉄の牙の上に垂れ下がった。
『ボクた、ちの、いえか、ら、デテい、けェぇッ!!』
あまりに、悍ましい咆哮だった。
これまでの彼からは聞いた事もないような大声、そして聖堂全体が震えるかのような衝撃が拡散する。鼓膜が破れそうなほどの清涼に、ヒナミは苦悶の声を上げて耳を塞いだ。
「……お前は」
『おおオオぉ、ぉおオォォぉぁァッ!!!!』
銀色の怪物が跳躍する。緩んだ床が大きく陥没して、超重量の金属塊が5メートルも上昇する。丸太の如く太い腕を象ったソレは鞭のようにしなると、一直線に床のタイルブロックを粉砕した。
寸前で回避したスルトルを、砕け散った瓦礫片が追撃のように打つ。微小ながらも確かな衝撃を伴ったそれらは、ショットガンのように再び彼の肉体を吹き飛ばした。
「……なんだ、オイ、お前。製鉄師、じゃあねぇな、オイ」
ただし、製鉄師である彼を護る魔鉄の加護は、一切のダメージを通さない。
平然と立ち上がったスルトルは、不機嫌そうに逢魔シンを睨みつける。
逢魔シンは、間違いなくOI能力者である。しかし製鉄師ではなく、ただ歪んだ世界を観測させられ続ける宿命を背負った、ただの人間でしかない。しかし、そのただの人間が振るえる力にしては、今の彼はあまりにも異端が過ぎた。
「カセドラル・ビーイング……いいや、違うな。近ぇが違う、お前は間違いなく人間だ、情報生命体って感じじゃあねぇ。魔鉄を纏っていやがるのか」
『け、ァアぁッ!!』
怪物の腕は、赤熱した断面を晒して落ちていた。
スルトルが焼き切ったのだ。その手を包む超高温の光の刃、1.5メートルほどの射程を持つ熱線。ただ掲げるだけで周囲の床が焦げ付き始めるそれは、あの程度の魔鉄塊を瞬く間に切り落とす事も容易であるのだろう。
だが。
ずるり、と、切り落とされた片腕がひとりでに動き始める。大質量のそれは切り落とされたシンの鋼の鎧に再度纏わりつくと、これも再び巨大な腕の形を象った。
「魔鉄器じゃねえ――魔鉄をそのまま、イメージの力だけで無理やりに纏ってやがるのか、お前」
『ガ、あッ!!』
鬼の姿を模したそれは大きくその脚をしならせると、スルトルの腹部に膝を直撃させる。膨大な質量と速度により振り抜かれたそれは彼の肉体を大きく浮かせると、弾丸の如き速度で瓦礫の山へと叩き込んだ。
異形の怪
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