episode13『せかい』
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落ちたかのように、彼はそう呟いた。
何と答えてやるべきなのか分からなかった。
怒るべきだったのだろうか。そんな馬鹿なことを言うなと、自ら命を投げ出すような真似が許される筈がないと、怒ってやるべきだったのだろうか。
諭してやるべきだったのだろうか。神に仕えるものとして、自らの人生をすべて放棄しようとする彼を導いてやることが救いになったのだろうか。
智代には、そのどちらも出来なかった。
何かを言うこともままならず、ただただ目の前に居る子供の歪みに胸が痛くなって、抱きしめた。訳も分からずされるがままになったシンには悪いとは思ったが、彼に掛けてやれる言葉がなかった。
――逢魔シンが振鉄位階のOI能力者である事が分かったのは、それから二日ほど後の事だった。
彼の抱える世界は、彼自身が鬼に見えるというものであった。そういった自分自身が何か架空の生物であったり、何かしらの特殊な変質が起きた姿に見えるという歪む世界は比較的よく聞く話であったから、歪む世界の事を実体験として知らない智代は、経過の観察のみに留めざるを得なかった。
彼の抱える世界が異常なものであると知ったのは、そこから更に一週間ほど。
気が付けばよく怪我をする子だ、とは思っていた。些細な切り傷、打ち傷、それまではその程度の怪我だったからあまり気にしてはいなかった。慣れない環境なのだ、そんな事もあるだろう、と思っていた。
ある日、当時の最年長だった子が慌てて呼びに来た。
シンが大怪我をしたという。智代は慌てて彼の案内に従ってシンのもとに向かい、絶句した。
だらんと力なく垂れた左腕からは、次々に血が滴っていた。着せていたシャツはどす黒い血で染まって、じわじわとそのシミを広げている。慌てて救急車を呼んだのち、彼の服を脱がせてみれば、またも智代は言葉を失うことになった。
彼の左腕は、まるで刃物で突き刺されでもしたかのように貫通したような傷が出来ていたのだ。
何か危ないものに触ったのか、と問いただしても彼は首をかしげる。痛みなどまるで分らないとでも言うかのようなそのけろりとした様子に、智代は改めて危機感を覚えた。
逢魔シンの抱える世界は、あまりにも歪だ。彼自身その全容を把握しきれていないそれは、現行の人類が至った理解を超えるもの。
彼という人間を壊したのは、彼の中の世界なのだと悟った。
――そしていつか、その地獄から彼を解き放つと、そう心に決めた。
――――――――――――――
紅蓮の世界に包まれた聖堂が、瞬く間に白銀色に染め上げられていく。
水銀のように流動するそれからいくつか分離した、シャボン玉のようにふわふわと浮ぶ不
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