episode12『銀色の鬼』
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掻き消したそれに付随して風切り音が届き、彼の体が浮いた。
「な」
「――伏せろ、ヒナミッ!!」
智代の声が、響いた。
「何を」
「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!!」
とっさに反応したヒナミの背後に居た製鉄師の男の声を掻き消して、ダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ、という炸裂音。同時に光の残像が宙を駆けて、一直線にスルトルの居たあたりに突っ込んでいく。辺り、と濁したのは、彼がそれまで居た場所から大きく吹き飛んで、今まさに土埃に塗れているからだ。
聖堂の、もう片方の裏手口。物置に繋がっているほうだったか、普段はカギが掛かっていて入れなかった場所だが、今は完全に開かれて、そこに智代が立っている。その両手に抱えられているもの、は――。
「お、おいおいおい……!なんつーモン置いてんだいこの孤児院は!」
智代の両腕に抱えられているものは、鈍く光沢を放つ漆黒の魔鉄器。世間一般、普通に暮らしているものは知らない事が多いが、多少“裏側”の事情に精通するものならば大抵は知っている。
――魔鉄徹甲弾採用型、D?34回転式多銃身機関銃。通称“MAGIA”。
とても、こんな繁華街外れの孤児院に置いてあるような代物では、断じてない。だが、事実こうして有馬智代はそれを手にして、まして当然のように撃ち放っていた。
「修道女風情が、そんな玩具で製鉄師を止められるとでも――!」
「走れヒナミ!」
「――っ!」
とっさに、智代の声に従って走り出す。行く先など分からなかったから適当だ、彼らから距離を置けるならどこだっていいと、殆ど何も考えてはいなかった。
「いい子だ」
それと入れ替わるように、智代が彼らに肉薄する。いつの間にMAGIAを投げ捨てたのか、瞬きの内に男の足元へと滑り込んだ彼女はケープを開くと、その裏地のホルスターに挿されていたいた二丁の拳銃を引き抜く。
超小型魔鉄採用散弾銃カストル。電磁加速式大型拳銃ポルクス。
そのどちらも、とても表世界では流通されていないような代物だった。
バガンッ!という射撃音と共に、大男の体が浮き上がる。
傷はない、魔鉄の加護に護られた製鉄師に対抗できるのは製鉄師のみ。それ以外の手段では、彼らに傷を負わせることは不可能なのだ。
だが、製鉄師とて実体を失った幽霊とは違う。
彼らとてその肉体は物質だ。物質である限り、運動エネルギーの法則性から外れることはない。例え傷を与えることも、或いは命を奪うことも不可能にせよ、他の物質からのあらゆる影響を受けなくなるという事では断じてないのだ。
押せば動き、跳べば落ちる。
「お、まえ」
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