episode12『銀色の鬼』
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に取りに行こうと席を立って数秒後くらいの事だ。
パチ、パチとまばらな拍手が聞こえてくる。
聞いたことのない声だった、僅かにノイズの混じったその声は魔鉄翻訳機特有のもので、声の主が日本語を用いていない事を――海外から来た者だという事を表す。
焦げ臭い匂いが、鼻の奥にこびり付くようだった。
『……何者だ!』
すぐに、ヒナミの近くに控えていた製鉄師が立ち上がった。
マジックだと言って、よく手のひらから色とりどりの鉱物を生やして見せてくれた人だった。
彼は相方の魔女に目配せすると同時に、何かを呟くと同時に全身から七色の鉱物の鎧を出現させて、バツンッ!という衝撃音とともに地を蹴る。
彼の姿を見た、最後の時だった。
『ひ』
眼が灼けるような閃光だった。
辛うじて捉えられたのは、球状の光の塊だった。おおよそ二メートルといった大きさの球、それが太陽のフレアのような迸りを纏って巡り、やがて消失する。
光球の発生した場所は、そこだけ抉り取られたかのように消滅していた。床や天井は炭化して、僅かに赤い燃焼跡を残すのみ。
鉱物の鎧を纏った彼は、そこには居なかった。
『う、そ。うそ』
相方の魔女が、何が起こったのかわからないといった様子でよろよろと歩く。
一つ、瞬き。
瞼越しに、強烈な光が瞳を照らした。
魔女は、焼失していた。
『他人の運命の出会いに水を差さないでくれよ、白けちまうだろう』
男は、その身に炎を宿していた。
両手は轟々と燃え盛り、手の甲には炎の奥で薄紫の紋章のようなものが輝きを放っている。あまりの熱気からか、部屋の温度が真夏場の炎天下のように上がったのを感じた。
めらめらと、焼き払われた辺りから徐々に火の手が生まれてくる。一部木造の構造を含んだこの家は、完全に魔鉄から建築された家のような防火性はなかった。
『よう、俺の花嫁。誕生日おめでとう――この日を迎えるのを、ずっと待ってたぜ』
その姿を覚えている。
身綺麗に整えられた黒髪はその末端が赤みがかって、全身を包む真っ黒なコートは袖の淵が焼き切れている。整った顔立ちに浮かぶニタリとした笑みが不気味で、炎を宿した指先を胸の前で合わせる特徴的な癖があるようだった。
その男の笑みが、その男の到来が。
ヒナミにとっての、悪夢の象徴となったのだ。
「――。」
歩く。
歩く。
もう随分と歩き慣れた廊下だ、年越しに向けて大掃除を済ませたばかりの孤児院は比較的綺麗に清掃されていた筈なのだが、廊下にはいくらか大きな埃のダマが転がっている。
恐らくは窓枠か天井のLEDライトの裏にでも溜まっていた埃がさっきの衝撃で落ちたのだろう。見
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