暁 〜小説投稿サイト〜
幻の月は空に輝く
名門の肩書きは面倒だ
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 トテトテトテと、忍の卵にしては間抜けな音が廊下に響く。
 先頭に立って歩くのは私。その後に続くのがネジ。一方通行な顔見知り…まではいかないけど、多分良く知ってる相手。
 そんな相手と一緒に歩く割に会話はなく沈黙が場を支配する。
 なんだろうなぁ。
 最近こんなんばっかだよねぇ。
 つい先日もこんな気まずさを体験したばかりじゃないだろうかと、一度対人関係に効果のある神社にお参りに行こうかを本気で考えながら、作業場の戸をガラリと横に開けた。
 さっきまで私が使っていた作業場はまだ熱が篭っているような気がするが、今は作業を再開する為に戻ってきたわけじゃない。
 棚にしまってある私が作ったクナイが収められた布を手に取り、それをネジの前で広げて見せた。
 小指サイズから一般的なサイズのクナイまで、大きさは様々。ここまでくると趣味の域に達しているけど、趣味だから仕方ない。昔から凝り性だったんだよね。
 私の趣味の領域のクナイを見たネジの反応は素直だった。一瞬驚いたように目を見開いたけど、次の瞬間には私を見て、
「手にとっても?」
 と聞いてきた。
「どうぞ」
 ここまで見せておいて断る理由はない。というわけで、あっさりと頷くと、ネジはゆっくりと、一つ一つ確かめるように大小様々なクナイを手に取り、その感触を確かめていく。さて、こうなると私は手持ち無沙汰だ。
 態々人が選んでるものをジィッと見るのは苦手だし。となると、ここで簡単に出来る作業にでも取り掛かろうかと、棚から小刀を取り出し、ソレを磨きだす。
 この作業自体集中してやってしまえば時間を忘れるけど、忘れすぎるのも問題だったりする。ネジも集中しているからいいか、と、神経を研ぎ澄まし刃先を見つめた。
 研ぎで失敗すれば台無しだ。柄の意匠もあったものじゃない。
 柄や鍔の意匠に拘るのは現代人の感覚のような気もするけど、やっぱり綺麗な方がいいじゃないかと思うんだけどどうだろう。
 使えればいいという人が大半だろうから、あんまり理解されないだろうけど。
 
 カチャリカチャリと、ネジがクナイを持っては置きを繰り返す音と、シュッと私が刃物を研ぐ音だけが工房に響く。
 
 集中してしまえば余計な音は耳に入らなくなる。

 私と、研ぎ石と、刃だけ。

 これが、今の私の認識。

 けれどそこに待ったがかかる。テンが私の意識に介入し、ネジの存在を思い出させてくれる。あぁ…うん。終わったんだね。
 一定の間隔で動かしていた指先を止め、ゆっくり息を吐き出す。そして顔を上げてみれば、いつものランセイだ。
 職人を目指すランセイでいると、いつもとはちょっと違う感覚に入るから、その辺りはあまり人に見せないようにしてたりする。ちょっと恥ずかしいし。没頭する趣味を見られるのは、今
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