第百二十三話 耳川の戦いその七
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島津家の軍勢は飯を素早く食うと陣形を整えた、勿論武器は皆手に取っていてそうして日の出を待った。夜は間もなく明けようとしていて空は白くなっていた。
その白くなってきた空を見て義久はまた言った。
「今か今かとな」
「日の出が待ち遠しいですか」
「殿としては」
「左様ですか」
「実にな」
実際にというのだ。
「待ち遠しい、そして日が上がればな」
「敵が川を渡ってくる」
「そうすればですな」
「敵が川を半ば渡ったところで」
「その時に」
「法螺貝を鳴らすのじゃ」
そうするというのだ。
「よいな、それまではな」
「このままですな」
「陣を整え」
「そしてですな」
「動かぬことですな」
「間もなくじゃ」
義久は確かな声で全文に告げた。
「動くのはな」
「左様ですな」
「あと少しなので」
「動いてはなりませぬな」
「これまで通り」
「皆動きたいであろう」
薩摩隼人として攻めたい、そのことはわかっていた。それは何故かというと義久も薩摩の者だからだ。
「一刻も早くな」
「そして攻めたいです」
「我等にしても」
「戦になれば攻める」
「それが薩摩者ですから」
「うむ、しかしな」
それでもというのだ。
「攻めるにも機がある」
「左様ですな」
「攻めるその時まで待つ」
「それも大事なので」
「それで、ですな」
「あと少し待つのじゃ」
そうせよというのだ。
「よいな」
「わかり申した」
「それではです」
「まだ待ちます」
「その様にします」
「動いたなら切る」
この言葉は本気であった。
「今は」
「切られるなら敵ですな」
「味方ではなく」
「それ故に」
「今はですな」
「法螺貝が鳴るまで動くな」
あくまでこう言ってだった。
義久は兵を動かなかった、敵はまず日の出と共にだった。
主戦派の者達が動き慎重派がそれに引き摺られて動きだした、まとまりは欠いていたが確かに動いていた。
それでだ、大友軍は。
まとまりを欠いたまま川を渡りはじめた、流れが強い耳川を何とか渡り島津家の軍勢の前に来た。だが。
義久は動かない、まだ敵を見ていて。
全軍にだ、また言った。
「あと少しじゃ」
「ですな」
「あと少しで川の半ばまで渡ります」
「敵の軍勢が」
「そうしますな」
「それまで待て、半ばを渡った時に」
まさにその時にというのだ。
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