第二章
[8]前話
「急に聞こえてきたけれどな」
「とんでもない大声でね」
「あんな声の奴村にはいねえな」
「とてもね」
「それも何処からか急に聞こえてきたな」
「一体誰の声だろうね」
「それがわからねえな」
夫婦でこうした話をした、村人達もそれがわからなかった。
だが何はともあれ命拾いをしたことは喜んだ、そして。
村人達は水が引いた後で村に戻ってみた、村は濁流に全て流され見事に何もなくなっていた。だが。
その中で見たこともない様な大きな石があった。
「何だこの石」
「見たことがないぞ」
「とんでもなく大きな石だな」
「こんな石村になかったぞ」
「一体何だ」
「どういった石なんだ」
「?これは」
五作もその石を見ていた、そして。
石に杖と沓に似たくぼみがあるのを見た、それを見てだった。
五作はどうして石にそんなものが一緒にあるのかといぶかしんだ。
「何で杖と沓なんだ?」
「どっちも歩くのに使うよね」
お糸もその二つを見て言った。
「そうだよね」
「ああ、どうしてなんだ」
「この二つなんだろうね」
「まさかあれか」
ここで村の長老、白い髭で腰の曲がった彼が言ってきた。
「石がここまで来てな」
「石が?」
「ああ、この二つと使ってな」
杖と沓をというのだ。
「それでこの村まで進んできてな」
「そうしてか」
「ああ、それでな」
そのうえでというのだ。
「わし等にな」
「水のことを知らせてくれたのか」
「そうかもな」
「じゃあおら達はこの石に助けられたんだな」
五作は長老の話を聞いて述べた。
「そうなんだな」
「そうじゃな、そう思うとこの石は有り難い」
「全くだ」
「それならこの石を大事にしような」
「そうだよな」
五作も他の村人達も頷いた、そうしてだった。
石は村人達に声をかけたので呼わり石と名付けて大事にされる様になった、静岡県に伝わる古い話である。
柳沢の石 完
2020・8・18
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