第五章
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「昔からね」
「得意なんだな」
「昔から上手って言われてて」
それでというのだ。
「今日も久し振りに歌ったけれど」
「上手かったんだな」
「そうなるわね」
「バラードも演歌もか」
「好きな曲はね」
ジャンルに関わらずというのだ。
「好きだから」
「それでか」
「ええ、何でも歌うの」
「そうなんだな」
「聴きもするし」
歌うだけでなくというのだ。
「そうしてるの」
「そうなんだな」
「ええ、じゃあ次は何処行くの?」
「実はな」
幸正は瑞希に考える顔で返した。
「これからはな」
「考えてなかったの」
「まだ四時だけれどな」
それでもというのだ。
「思った以上に展開が早かったからな」
「もう後はなの」
「考えてた場所全部行ったからな」
それでというのだ。
「後はもうな」
「適当にとか?」
「そんな感じでな」
「行くの」
「それでいいか?」
「幸正君がいいっていうならね」
瑞希は笑って応えた、そしてだった。
二人でカラオケボックスを出て今度は駅前にあったハンバーガーショップに行こうと話をして決めた、そうしてその店に行く途中に。
ホテル街があった、休憩何千何百円だの一泊何千円からだのサービスがどうかだの幾つも連なっている何階建てもの建物の入り口に書いてある。
その建物と文字を左右に見てだ、瑞希は。
顔を真っ赤にさせて俯いてこう言った。
「ええと、ね」
「いや、近道だったからな」
幸正も顔を赤くさせて応える。
「たまたまな」
「通っただけなのね」
「その店には何度も行ってるけれどな」
「この道はなの」
「知らなかったからな」
だからだというのだ。
「はじめて入るし」
「そうなの」
「ああ、すぐに通り抜けような」
「入らないの?」
瑞希は俯いて問うた。
「何処かに」
「いや、それはな」
幸正も俯いて返した。
「流石にな」
「考えてなかったの」
「考えるっていうかな」
それこそというのだ。
「予定も何も。キスもまだだろ」
「そうよね、あたし達って」
「だからな」
「ここはなのね」
「入らないでな」
何処にもというのだ。
「そしてな」
「ハンバーガー食べに行くのね」
「ああ、そうしような」
「それじゃあ」
「行こうな」
二人で顔を真っ赤にして俯いてだった。
その場を駆け足の様に通り抜けてハンバーガーショップで共に食べた、その後で。
瑞希は幸正に駅前で別れる時に言った。
「また街でね」
「デートしような」
幸正も笑顔で応えた。
「瑞希の色々な面見られたしな」
「それでなの」
「ああ、またそういうの見たいからな」
だからだというのだ。
「楽しいだけじゃなくてな」
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