第一章
[2]次話
北海の大魚
その話を聞いて呉島雄馬はまさかという顔で自分に話してくれた地元の学者水島誠にこう言った。
「よくある伝承ですよね」
「そう思いますね」
「はい、そんな話は」
呉島はどうかという顔で言った、黒縁眼鏡で黒い髪の毛を右で分けていてそこから後ろに撫でつけている。背は一七七位でやや面長の顔に知的な目である。身体つきはすらりとしているが上半身は細いが下半身はしっかりしている。職業は銀行員で八条銀行札幌支店にこの前大阪支店から転勤してきたばかりだ。今は札幌の居酒屋でたまたま隣の席になった水島とカウンターで飲みながら話をしているのだ。
そこで水島は北海道の色々な話をしているうちに噴火湾の話をしてだ、呉島はその話にこう言ったのだ。
「流石に」
「アイヌの人達の伝承でして」
水島はその小さな目が印象的な太った顔で話した、髪の毛は半分白くなっていてかなり薄くなっている。身体も太っていて背は一六五程だ。彼が言うには高校の教師をしながら風土研究を行っているらしい。
「あそこにはです」
「百メートルを超える大きさの魚がいまして」
「昔の単位で言う一町ですね」
「一町が百十メートルで」
それでというのだ。
「それ以上の大きさがあるとのことです」
「化けものみたいですね」
呉島はビールのジョッキを手に思わず言った。
「それはまた」
「はい、鰭は四十メートル以上あり」
水島はさらに話した。
「そして船も鯨も一飲みで全身の鱗が紅に光っているとか」
「まるで神ですね」
「そうした一面もあるかも知れないですね、アッコロカムイとも呼ばれていますがカムイはアイヌで言う神のことですし」
水島も否定しなかった。
「それは」
「やっぱりそうですね」
「その輝く光が強くて空まで照らされているとか」
「本当に神の様ですね」
「それでアイヌの人達はそこにその魚、アヅイイナウがいるとわかって」
それでというのだ。
「空が紅に輝く、夜だと思いますが」
「昼だと日光で目立たないですしね」
海からの光は日光に負けるというのだ。
「だからですね」
「そうかと、それで空勿論海も光る時はです」
その時はというと。
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