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波呼び
第二章
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「だからだよ」
「何があってもだな」
「別にいいさ、それこそ食あたりで死んでもね」
「まあ村にとっては嫌な奴がいなくなってな」
「万々歳だね」
「そうなるな」
 夫も結局否定しなかった、それでだった。
 彼は古守に何があっても自業自得だと思ってそうして女房と共に飯を食った、丁度その時間だからそうした。
 そして飯を食っていた時にだった、不意に窓の外で。
 津波が起こった、これには由吉も五十子も仰天したが津波は彼等の家には来なかった。だが用心の為に外に出て状況を確認すると。
 津波は村には殆どかかっていなかった、村の家も漁の道具を置いている場所も舟も無事だった。だが。
 ある場所だけ奇麗に流されて何もかもなくなっていた、そこは何処かというと。
「おい、古守さんの家がないぞ」
「そうね、あの人のお家だけね」
 一緒に見ている五十子も言う。
「ないわね」
「それで古守さんもいないな」
「そうね、津波でそこだけ流されたのかしら」
「他の家は大丈夫だしな」
「それに村の人達も」 
 多くの者が家から出て津波の様子を見ていた、見れば皆驚いている顔だが無事である。
「無事ね」
「ああ、けれど古守さんだけはな」
 その魚を食べた彼はというのだ。
「いないな」
「そうね、お家ごと流されたのかしら」
「そうかもな、姿が見えないしな」
「あの人とあの人のお家だけ流されるなんて」
「あの魚はまさか」
 ここで由吉はふと思った、それでこう言った。
「海に帰りたくてな」
「波を寄せるかって言っていたの」
「そうかもな、その魚を海に返さず食ったけれどな」
「魚はどうしても海に帰りたくてなのね」
「津波を起こしてな」
 そうしてというのだ。
「古守さんは波にさらわれたのかもな」
「そうなったのね」
「やっぱりな」
 由吉はしみじみとして思った、そうしてその思ったことを話した。
「喋る、それも波がどうかと言う魚は海に返すべきだな」
「そうね、古守さんはそんなことを考えなかったからなのね」
「津波に飲まれたんだ、自業自得と言うしかないな」
「ええ、ただあの人村の嫌われ者だったから」
「その人がいなくなったことはよかったな」
「本当にね」
 女房は亭主の言葉に頷いた、そうしてだった。
 村でこのことは語られてよく知られることになった、村の嫌われ者がいなくなったが家にいたのは彼だけだったのでこのことは喜ばれた。彼は嫌われ者故に家族もいなかったので余計よかったとされた。そのうえで喋る魚の様なものは食べないに限るということになった。沖縄に伝わる古い話である。出て来る者の名は何時の時代かわからないが維新以降の名前にした。一人でも多くの人が読んで頂ければこれ以上有り難いことはない。


波呼び   完


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