第五話 少しずつその十五
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「アイスクリームね。一緒に食べに行かない?」
「お別れの前に」
「実はさ。ずっと夢だったんだ」
密かにだ。自分だけで想っていた夢だ。
その夢をだ。今千春に話したのである。
「二人でね。好きな人とアイスクリームを買ってね」
「二人で食べることが」
「そう。お店で売ってる丸いアイスをね」
コンビニやスーパーにあるカップの中のものやソフトクリーム形のものではなくだ。そうしたアイスをだというのだ。コーンの上に乗せられているあれだった。
「それを食べたかったんだ」
「それが希望の夢だったの」
「そんなの出来る筈ないって思ってたけれど」
今まではだ。しかし今はだった。
「それでもね。どうかな」
「いいよ」
断る筈がなかった。千春が。
彼女は満面の笑顔でだ。希望のその言葉に頷いて答えた。
「じゃあそこに行こう。アイス一緒に食べよう」
「うん。じゃあね」
「そうだったの。希望の夢だったの」
「映画とか漫画で観ていいなって思ってたんだ」
「けれど無理だって思ってたの」
「今まではね」
「やっぱりそれは」
希望が何故そう思っていたか。それはもう言うまでもなかった。
だから千春もそのことを言うのを途中で止めてだった。そのうえでこう言ったのである。
「今はね」
「うん、今はね」
できる、前に向いているからだった。
千春もその彼を見てだったのだ。
「アイス。どのお店がいいかな」
「この周りは」
海辺を見回した。これまではアイスの売店もあった。しかしだ。
もう遅くなっていたので何処も閉まっている。海辺の店の閉店は早い。
それでだ。希望はこう提案したのだった。
「閉まってるから」
「町に行くの?」
「駅前に行こう」
この海辺の最寄の駅のだ、そこにだというのだ。
「そこにアイスのお店があったから」
「それじゃあそこで」
「うん、一緒に食べよう」
こう言ってだった。希望は千春と二人でその店に行ってだ。一つの夢を適えたのだった。夢を適えられた彼は幸せなままその日を過ごせた。彼の幸せは一瞬のものではなくなっていた。
第五話 完
2012・1・27
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