第五話 少しずつその六
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「だからだと。自分で思うんだ」
「そうなのね。千春と一緒にいたら」
「僕も幸せだよ」
また言った希望だった。
「一人で観る映画館は面白いけれどそれだけだから」
「それだけなの」
「そう、それだけだったんだ」
過去形の言葉でだ。希望は千春に話した。
「ずっとね。けれど今は違うから」
「千春と一緒にいるから幸せなの」
「遠井君といたらまた違ったんだ」
「その遠井君といたらどうだったの?」
「楽しかったよ」
幸せではなくだ。その感情と共にいられたというのだ。
「二人だとそうだったんだ」
「それで千春と一緒にいたら幸せなの」
「楽しいのと幸せって違うのね」
「そうみたいだよ。千春ちゃんと一緒にいてわかったんだ」
彼女の顔をちらりとだ。顔を向けて見た。
そしてそれからだ。また言ったのだった。
「楽しいのと幸せは違うって」
「どっちがいいの?楽しいのと幸せなのは」
「どっちとも言えないかな」
少し考えてからだった。希望はこう答えた。
「それはね」
「そうなの」
「けれど僕は今は幸せだよ」
それを噛み締めているというのだった。深く。
「本当にね。じゃあそろそろはじまるけれど」
「うん、二人で幸せにね」
「観よう」
微笑んで千春に言った希望だった。そのうえでだ。
映画がはじまりその最初から最後までだった。二人で観てだ。幸せを感じたのだった。
そしてそれからだ。映画が終わってからだ。
既にポップコーンもコーラも食べ終え飲み終えていた。それからだ。
立ち上がりながら千春にだ。こう言ったのだった。
「満足してる?」
「千春が?」
「うん、最後まで観て」
「幸せになれたの」
千春はまだ席に座っている。そうしながらだ。
隣にいて立ち上がっている希望を見上げてだ。こう言ったのだった。
「とてもね」
「千春ちゃんもなんだ」
「そう、そしてそれは今もなの」
「映画が終わってもなんだ」
「そう、今もね」
千春はこう答えた。それからだった。
希望に対してだ。自分が感じていることと同じことを尋ねたのである。
「それは希望も?」
「そうだね。僕もね」
そうだとだ。希望は笑顔で千春に答えられた。
「今も幸せだよ」
「映画が終わっても二人なら」
「そうよね。幸せだよね」
「不思議だね」
そのだ。幸せを感じていることがだと。またこの言葉を出したのだった。そんな話をしながらだ。千春も席を立ちだ。二人で映画館の出口に向かう。その間も話をするのだった。
「こんな感情を抱けるなんてね」
「じゃあね。幸せなままね」
「うん、映画館を出よう」
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