ターン38 パラダイムシフト
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体どうするってんだ!」
「悪いね、糸巻の。でも、私は可能性に賭けたいんだ。全部うまくいった世界で、あの子がもう1度それを望む……そんな、全てが都合よくいった夢を見たいんだよ」
「くっ!」
糸巻自身にも、なぜこれだけ自分が必死になっているのかはわからなかった。この老人の言葉通りに事が進むのならば、それは彼女も望んだ世界の再来となるはずだ。デュエリストが虐げられ、すべてが転落したあの時代以前の姿。とうに諦めそれでも焦がれ、望郷の念を煙草の煙と共に吐き出し、ニコチンで必死にもみ消してきたかつての記憶。分が悪い、そんなことは問題ではないはずだ。例えほんのわずかにでも可能性があるのならば、そこに賭けて最後まで勝利を掴み取りに行くのがデュエリストなのだから。
だが、それでも。
「……っ!」
左腕を真横に伸ばし、デュエルディスクを起動させる。燃え盛る炎によって決して無音とは言い難いはずの広間に、その起動音がひどく大きく響いたような気がした。前を行く背中がぴたりと止まり、まるで初めて糸巻の存在に気づいたかのような目でゆっくりと彼女へと向き直る。
「……なるほど、糸巻の。君は私を止めるんだね?その理由が、私には理解しがたいがね」
「アタシにも分かんねえよ、んなもん。なんでなんだろうな、ほんと」
首を振りつつ吐き捨て、デュエルディスクを構える。自分のしていることが正しいかどうか、彼女自身にも分からなかった。しかし、少なくとも間違っているとも思わなかった。
「でもな、爺さん。やっぱり、そりゃ無法が過ぎるってもんだぜ。13年の歳月は、いくらなんでも重すぎる。これはもう、爺さんひとりが自由にいじくっていい話じゃない。過ぎたことを否定するのは、13年間のアタシの、八卦ちゃんの、鳥居の……それに爺さん、アンタ自身の全てを否定するってことなんだ」
「少なくとも私の13年は、今日という日のこの瞬間のためだけに費やしてきたものだよ。それを否定するのなら、それこそ私の全てを否定することに他ならないさね」
「とぼけやがって、ならもう1回聞かせてもらうぜ。だったらどうしてアンタは、どうせなかったことになると思ってたくせに八卦ちゃんにデュエルを教えたんだ?」
「言っただろう?私は私の夢を追うのさ。あの子を仕込んでおけば、なんだかんだと面倒見がよくて人肌恋しい赤髪の間抜けはそっちにかかりきりになってくれるからね。おかげで、私も一番大事な詰めの時期に自由に動くことができた。これだけ強大な出力を持つ『BV』電波塔の建設なんて、糸巻の。アンタみたいに勘の鋭いデュエルポリスが暇してる目と鼻の先で動き回っていたら、さすがの私も隠し通すのは骨が折れたろうからね」
「そんな理由で、八卦ちゃんに……?」
愕然とする糸巻を鼻で笑い、なんてことないように口
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