ターン38 パラダイムシフト
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してくれた、この老人の言葉を。
「どうしてなんだ、爺さん?なんでアンタが、こんなことを?」
「なんだ、そこからかい?違う違う、そうじゃない。アンタが私に聞くべきは、私が何をやろうとしているのか。なぜ、ではなく何、だ。そうだろう?」
心底愉快そうにひひひっと笑い、両手を広げる。糸巻にはその姿が、かつて彼自身がプロデュエリストの大舞台で大観衆を前におどけてみせた時の記憶と重なって見えた。
「実のところ糸巻の、私が付いた嘘はほんの1部だ。この施設がまだ未完成なのは本当だし、大分中枢があったまってきているのも本当だよ。ただ、だからといって今すぐ融解するほどじゃない。そもそもこのプラントの情報をどこから手に入れて、なんでそんなことまで知っているのか……聞きたそうな顔だけど、まさかにそんなつまらないこと、今更口にはしないだろうね?私の情報源に口を出さない、そこは今まで通りやっていこうじゃないか」
「……」
「さて、それじゃあ話を戻そうか。なんでそんな手の込んだことをしたかというと、『BV』発生装置のある特性に用があったからさ。これはデュエルポリス、テロリスト側双方でもかなりの上層部にしか知らせていないたぐいの機密なんだがね、この装置の出力は安定状態にあるほど低く、限界を迎えるほどに分子固定や物質操作、常識改編の力が強まるのさ。まして、このプラントのサイズだ。もしそれがオーバーヒート寸前の状態になったとすると、そのエネルギー量はどうなると思う?」
さもクイズのように問いかけるが、はじめから糸巻の答えは求めていないのだろう。口を開く様子のない彼女にもなんら反応することなく、またしても楽しそうに笑う。
そしてその笑顔に、彼女はふと引っかかるものを感じた。今、この老人は何と言っただろう。上層部にしか「知らせていない」?その物言いでは、まるで……。
「それこそ、世界を変えるほどの力がある。ブレイクビジョン……デュエルの常識を打ち破り、ワンランク上に世界を引き上げる力。私がかつて望み、そして辿り着いた力」
「ちょっと待てよ、爺さ……」
「ブレイクビジョン・システムの生みの親は、私だよ。私が研究し、産み出した」
それは頭を棍棒で殴りつけられた、糸巻にとってはそう錯覚するような衝撃だった。
どこからともなく情報を手に入れる、常に何でも知っている老人。昔も今も世話になり続けてきた、頭の上がらない生ける伝説。そして過ぎたこととして半ば諦めてはいたものの憎んでも憎み切れない、自分のいた世界全てを、デュエルモンスターズを落ちぶれさせた大戦犯。呪いの技術である「BV」の生みの親。2つの人物が突如として同一のものだと明かされ、床が抜け落ちていくかのような感覚を感じる。確かに固い床を踏みしめているはずの両足が、ひどく頼りないものに感じられた
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