ターン38 パラダイムシフト
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ろ?」
「おや、よろしいのですか?私を自由にしても」
「はっ、そんな気もねえくせによく言うぜ。少なくともアンタの性格なら、嫌だっつってもそれが終わるまでは逃げる気なんてなかっただろ?お高くとまった研究者として、無意味にバカ高いそのプライドが許さねえだろうからな」
「ふむ。愚問、でしたね。貴女の指示でこの私が動くというのは吐き気が出そうな事実ですが、私の生涯の汚点として残しておくに留めておきますよ。それと、そういうことでしたらそこの貴方。『BV』を使わずにカードを実体化するその能力、役に立つやも知れません。彼は借りていきますよ」
そう言って清明を指さすと、そう言われることは想定内だったのかあっさり頷く糸巻。言われた本人も特に不満はないらしく、はいはいと気軽に了承して巴の後をついていくのを確認し、残る1人に向き直る。
「それと、鳥居。アンタはこの辺の人間かき集めて、最悪お前だけでもすぐ逃げられるようにアタシの乗ってきたボートで待機しとけ。いつでも出せるようにしておけよ……いいな、頼んだぞ」
そして、糸巻は元来た道を走りだす。いつも通り、ひとりぼっちの戦場へと赴くために。その姿を呆然と見送った鳥居の背で、彼の背負っていた男がかすかな呻き声と共に身じろぎした。
「う……」
「爺さん、いるか……?」
糸巻が再び中央の広間に戻った時、まだ先ほど彼女自身が巻き起こした炎はごうごうと燃えていた。幸いにも空調が全力で空気を循環させているためか、それでも息苦しさは感じない。天井のスプリンクラーが水を吐き出してはいるものの、鎮火にはまだしばらくかかりそうだ。
「いや、空調止めた方が早いんじゃないか?酸素送ってどうすんだよ」
「ひひひっ、もうしばらくは消えてもらうと困るのでな」
1人佇んで背を向けていた老人の背中に、呆れ声を掛ける。広間に足を踏み入れてから1度も振り返りこそしなかったものの彼女の存在自体には気が付いていたらしく、別段驚いた様子もない声が帰ってきた。
「……そうか。あー、それでな、爺さん」
「なぁに、皆まで言うことはないさね。なあ、糸巻の。アンタがここまで戻ってきたってことは、つまり、気づいたんだろう?それとも存外、まだ嫌な予感止まりかい?」
「……」
ただそれだけで、彼女には理解できた。理解、できてしまった。清明の与太話のような言葉は、巴の覚えた違和感は、決して間違ってはいなかったのだと。間違っていたのは、そこから目を逸らそうとしていた彼女自身なのだと。
悠長に会話している場合ではない。それはわかっていた。でもどうしても、聞かざるを得なかった。13年前のあの時よりも前、黄金の時代を作り上げた男の言葉を。隠居の身となってなお、デュエルポリスに情報を提供し彼女をサポート
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