ターン38 パラダイムシフト
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「ヒーローバリア!」
低く凛とした声が、その時響いた。その熱量と光量からその場にいた人間すべての視界を白く染め、爆発的な勢いで広まろうとしていた炎が、ちっぽけな人体を飲み込む寸前に突如として実体化された1枚のカード、高速回転するプロペラのような壁に阻まれる。
「なにっ!?」
「こ、これは……」
押し寄せる炎からもっとも近い場所にいた糸巻と巴が、ほぼ同時に困惑の声を上げる。そして、彼女らは見た。床を壁を未練がましく舐めては一定の位置から不可視の壁に阻まれる炎の向こう側に、1人の人影が立っているところを。メラメラと荒ぶる照り返しが、その顔をくっきりと照らす。
「爺さん?」
「ご老体……?」
その男の事は、この場にいた全員が知っていた。いや、むしろかつてそこにあった栄光の時代……デュエルモンスターズが栄え、政界や財界と並びカードゲーム界が世界を構成する概念として存在し、かつての糸巻や巴がそこにいた世界を知るものであれば、彼を知らぬものなどいないだろう。13年の歳月はその風貌にきっちりと刻まれているが、確固たる意志の力は依然として衰えていない。
単なるカードゲームに過ぎなかったデュエルモンスターズを、ゲームを超えて世界を支配する概念にまでのし上げた伝説の男。生ける伝説、プロデュエリストという職業の原点にして頂点。
「『グランドファザー』……」
「……七宝時、守」
ここにいるはずのない、すでに現役を退いて久しい元プロデュエリスト。今では一介のカードショップ店長でしかないはずの彼が、なぜこの地図にもない海上プラントに平然と来ているのか。
「……いや、聞くだけ野暮だったな。助かったぜ、爺さん」
諦めたように、糸巻が首を振る。裏の顔として情報屋も営むこの地獄耳の老人なら、何を知っていても不思議はない。そして炎の中を平然と歩いてきた七宝寺が、急き立てるように身振りで促す。
「ひひっ、妙なところでの思わぬ再会だが、話は後にしようとも。今の爆発は、まだまだ小規模……このまま放置していたら、比べ物にならないぐらいにここ一帯が吹き飛ぶよ」
「どういう意味です、ご老体」
「巴の、この施設に随分無茶させたみたいだねえ。ここを乗っ取ったばかりのアンタには理解できてなかったみたいだが、そもそもここはまだ未完成もいいところだったのさ。冷却施設がまともに機能してないところをフル稼働させたうえに、こう何度も何度も短期間でカード実体化の繰り返しだ。侵入者退治でドンパチやってる間に、中央部はもうオーバーヒート通り過ぎて融解寸前まできてるんだよ」
「なんですって……!?」
「底抜けのアホ」
突然の通告に言葉を失う巴に、ここぞとばかりに間髪入れず駄目押しの嘲笑を浴びせかける糸巻。しかし彼女にとっては残念なことに
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