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優しい人と一緒になれて
第一章

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                優しい人と一緒になれて
 この時歳納恭子、茶色の短い髪の毛で皺の多く小さな目と唇を持つ老婆は一緒に住んでいる夫の武蔵、白髪を伸ばし色黒で皺があるが鼻が高く引き締まった顔で背筋もしっかりしている彼にこう言った。
「物凄く弱っている猫でね」
「うちでか」
「そう、飼おうと思ってるけれど」
「ならそうしたらいい」
 夫はにこりともせず答えた。
「お前がそうしたいならな」
「いいの」
「俺はいい」
 飼ってもというのだ。
「そうしたいならな、しかし俺はだ
「お世話しないのね」
「俺は猫は好きじゃない」
 だからだというのだ。
「だから世話はしない」
「あなたは昔から猫は嫌いね」
「だから近寄りもしないな」
「昔からね」
「だからだ」
 それでというのだ。
「俺はだ」
「お世話をしなくて」
「若しお前に何かあったらな」
 その時はというと。
「武士達に預ける」
「あの子達になのね」
「あいつは猫が好きだし一軒家にいるからな」 
 息子とその家族はというのだ。
「だからな」
「あの子達に預けて」
「俺は面倒を見ない」
 断固という言葉だった。
「いいな」
「ええ、じゃあね」
「それでいくからな」
 元自衛官の彼はこう言った、航空自衛隊のパイロットで階級は二等空佐で終わった。還暦を過ぎた今は民間で建築会社の管理職をしている。
 だが性格は自衛官の時のままでだ、妻にもこうした態度で堅苦しく生真面目でしかも融通が利かず。
 猫も嫌いで妻が飼いたいならそうしろでだった、実際に猫が来たと妻に言われてもにこりとしなかったが。
 その猫を見ると妻にこう言った。
「ガリガリだな」
「ええ、何でもね」
 妻は夫に話した。
「前の飼い主が虐待していて」
「それでか」
「ご飯もまともにあげてなくて」 
 それでというのだ。
「こんなに痩せて毛もボロボロなの」
「酷い奴がいるな」
「ほら、四丁目の平能京一郎っていう」
「あのプロ市民のか」
「あの人が飼っていてね」
「この前警察に捕まったな」
「ええ、動物虐待で通報されてね」
 そしてというのだ。
「覚醒剤も見付かって他にも色々悪いことしていて」
「とんでもない奴だったな」
「あの人に飼われていたのよ」
「虐待する為に生きものを飼ってどうする」
 夫は険しい顔で言った。
「一体」
「それはわからないわよね」
「全くわからん」
 夫ははっきりと言い切った。
「全くな」
「そうよね」
「そんなことをしてどうなる」
 夫はこうも言った。
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