第五章 トリスタニアの休日
第四話 魅惑の妖精
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ましてお客さま」
チュレンヌを挟むように座ったルイズとジェシカが笑いかけると、チュレンヌの鼻の下がだらしなく伸びる。
「さっ、まずは一献」
「どうぞお客さま」
「むほっむほっ! それじゃあどちらの……こっちだな」
「……っ」
手に持ったコップをルイズとジェシカのどちらに向けるか迷ったチュレンヌだったが、二人の胸元を見比べるとあっさり手をジェシカに向けた。あっさりと背を向けられると、穏やかに微笑むルイズの額に、ピシリと血管が浮く。ルイズを完全に無視し、ジェシカとチュレンヌは会話を続けている。
「おおっと! 溢れてしまうな、もういいぞ。さて、それではもちょっとこっちに寄って来い」
「そんな、貴族さまに近づくなんて恐れ多い」
「お客さま、わたしはルイズと……」
「はん! 確かに泥臭い平民に近づかれるのはたまらんが! こんな平民の店にわざわざ来てやったのだ、それぐらい我慢してやる! ほらいいからこっちに来い!」
「わ、わかりました。でもそれよりワインのお供にこれはいかがですか、このお店特性の料理です。とても美味しいですよ」
「お客さま、わたしは……」
「まあ、確かに美味いが、それよりもこっちに来い。噂に聞く『魅惑の妖精』亭の看板娘の身体を味わいさせてもらおうか」
「お客……」
「特にその胸。噂通りでかいな」
「…………」
「そこのガキとは正反対だ」
「………………っっ」
「ほれいいからこっちに来――ひでぶっ!!」
あ、やばいと士郎が思った時にはすでに遅く。ルイズの足刀が綺麗にチュレンヌの側頭に叩き込まれていた。尻を動かし少しずつ下がるジェシカに手を伸ばした格好のまま、チュレンヌが吹き飛び。椅子やテーブル、ワインの瓶を破壊しながら床に転がるチュレンヌは、端の壁にぶつかりようやく止まった。瓶の破片やテーブル等の木屑が宙を舞い、ガラガラと微かに木片が崩れる音のみ静まり返った店内に響いている。従業員や取り巻きの貴族たちは、何が起こったのか理解できず、ただ言葉を失って呆然としている。そんな中、ルイズが静寂を破り雄叫びを上げた。
「所詮胸か! 胸なのか〜〜!!」
戦慄く握り拳を腰に当て、天――井を仰ぎ見て吠えるルイズ。
ビリビリと空気が震え、何とか崩れ落ちるのを免れていたテーブルや椅子が崩れ落ちていく。その雄叫びに気を取り戻した取り巻きたちが、わめきたてながら腰に差していた杖を引き抜く。
「きっ貴様! チュレンヌさまに一体何をする!」
「何をやったのか理解しているのか!」
「死を持って償え!」
ルイズに取り巻きたちの杖の切っ先が向けられ、呪文が唱えられる。しかし、杖の先にいるルイズに焦った様子は見えない。怒りで我を忘れて状況が読めていない訳ではない。ただ信じているのだ。こん
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