第五章 トリスタニアの休日
第四話 魅惑の妖精
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を着ていることから、貴族は貴族でも下級貴族のようだ。中には腰にレイピアに似た杖を差した軍人だと思われる貴族もいた。
偉そうにふんぞり返りながら入ってくる男たちに、店の中の者たちの顔が、客も従業員も関係無く顰められる。騒がしかった店内が静まり返る中、男たちに向かって店の奥からスカロンが満面の笑みを浮かべながら駆け寄っていく。
「これはおひさしぶりですチュレンヌさま……ようこそ『魅惑の妖精』亭へ」
スカロンが何時も野太い声をひそめると、チュレンヌと呼ばれた男に頭を下げる。チュレンヌはスカロンの後頭部をチラリと一度見ると、店をぐるりと見渡した。
「ふむ。客の入りが悪いという噂を聞いていたが、どうやら噂は噂だったようだな」
「いえ、いえ。そんなことはありません。今日は偶然客入りが良かっただけで、いつもは――」
「別に言い訳はせんでいい。 今日は客としてここに来たのだからな」
客として来たというチュレンヌに、スカロンの顔に浮かぶ笑顔にピシリとヒビが入る。即座にヒビを修復すると、スカロンは更に頭を下げた。
「それがご覧の通り本日は満席で、恐れな――」
「はんっ! 満席? 私の目には……」
チュレンヌが背後にいる取り巻きの貴族に目配せをすると、一斉に取り巻きの貴族が杖を引き抜き、その切っ先客に向けた。貴族たちから杖を向けられ、一瞬で酔いがさめた客たちは、一斉に逃げ出しあっと言う間に店の中から客の姿がいなくなる。
「客の姿なんて見えないが?」
肩を竦めて意地悪く笑うチュレンヌは、腹のぜい肉をブルブルと震わせながら取り巻きを引き連れると、占領するように店の真ん中の席についた。
店の影からその様子を見ていた士郎は、苦々しい顔をして腕を組んで立っていた。貴族が店の中に入ってきたのに気付いた士郎が、どうにかして出て行ってもらおうとしようとすると、その前にスカロンに呼び止められたのだ。
厄介なことにあのメタボリックな貴族は、この辺りの徴税官を勤めているようで、逆らうと、とんでもない税金がかけられ、店が潰れてしまう。そのため、それをいいことに、あの貴族は取り巻きと一緒に、自分の管轄の店に来ては好き勝手しているそうだ。
「おい! 女王陛下の徴税官様が来たというのに酌をする女はおらんのか!!」
近付いてくる女の子がいないため、チュレンヌが手酌でワインを飲みながらわめきたてている。ベタベタと触るわ飲みまくるわするのに、チップを一枚も払わないため、貴族の客だというのに近づく女の子はいない。
「まったく平民の店は酒も女の質も最悪だな!!」
取り巻きの貴族たちと口汚く店の悪態をついていると、チュレンヌに近づく二つの影があった。
「ん? おお!」
「お久しぶりですチュレンヌさま」
「初め
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