暁 〜小説投稿サイト〜
魔法絶唱シンフォギア・ウィザード 〜歌と魔法が起こす奇跡〜
魔法絶唱しないフォギア無印編
魔法使いの帰省・颯人の場合
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ソファーの前のテーブルの上に円形に広げた。奏が隣に座り、彼の手元をジッと見ている。

 綺麗に円形に広げられたトランプのカード。それだけでも大したものだが、本番はここから。円形に広げられたカードの端を指で弾き、一枚が跳ね上がるとそれに連動して逆ドミノ倒しの様にカードが全て立ち上がり、更にカードが二枚一組で互いに支え合った。結果、トランプタワーの下段が円形に連なったようなものが出来上がる。

 その光景に奏が拍手した。

「お〜、相変わらず見事な手並みだね」
「……昔父さんがここに座って見せてくれた奴だ。初めてこれを見せてもらって、やってみたくて何度も練習しちゃ失敗してきたもんだよ」
「でも今はこうして出来てる。立派に成長してるって証だよ」
「どうだろうな……何しろ、俺は父さんに認めてもらってないから」

 これは颯人が抱える数少ない悩みの一つだ。
 奇跡の天才マジシャン・明星 輝彦の息子と言う肩書は颯人にとって誇りだが、同時に重荷でもあった。颯人の手品は、絶えず輝彦のそれと比較される。それを解消してくれるのはただ1人、輝彦だけだ。輝彦が認めた瞬間、颯人の手品は独り立ち出来るのだ。

 だがその輝彦は颯人が子供の頃に交通事故で他界してしまった。颯人はこれからも一生、『輝彦の息子』と言う肩書を背負って手品をしなければならないのである。

 それが颯人にとって辛い事なのかどうか、それは奏にも分からないし訊ねるつもりもない。何故なら奏は知っているからだ。颯人の手品は誰が何と言おうと世界一であるという事を。

「手品の良し悪しは見る人が決める事だろ? なら、アタシは認めるよ。颯人の手品は誰にも負けないって」

 奏の言葉に、颯人は小さくハッと息を呑み、次いで笑みを浮かべるとテーブルの上に広げたトランプを撫でるようにして一瞬で片付けた。

「…………この家、流石に1人で住むには広すぎる。本格的に帰るのは、色々な問題が片付いてからだな」
「ん、そうか」
「その時さ……なんだったら一緒に来るか?」

 最初奏は颯人が何を言っているのか理解できなかったが、その言葉の意味が理解できると一気に顔を赤くした。

「ちょ、颯人!? それ──」

 先程の言葉の意味を問い質そうとする奏だったが、その唇に颯人がそっと人差し指を当てた。何時になく穏やかな顔で自分を見つめてくる颯人に、奏も思わず口を噤む。

「今は、ここまでだ。言ったろ? 色々な問題が片付いてからだって。今はまだその時じゃない」

 そう言って颯人は奏の唇から指を離すと、その指に軽く口付けをして立ち上がった。

「状況が落ち着いたら、その時にな。さ、そろそろ帰ろう。俺達が今居るべき場所に」

 一足先にリビングから出る颯人の背中を、奏は赤く染まった顔
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