陰火
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つ。いいか、俺が就職して多忙なサラリーマンになったら、この洞には滅多に顔を出さないからな」
「あはあははは…絶対来るね、週3で来る」
「そんなに来ねぇよ!」
「来るんだよ。今までずっとそうだったんだよ。くっくっく…」
どうにかこうにか爆笑を収めて、奉は茶をすすった。『これまで』とやらを俺は知らないのだが、奉に流れる膨大な時間の中で、この洞に頻繁に顔を出す存在が必ず在ったのだろう。それが俺である可能性は、もう確信に近い程、高いということか。それもこれも全て、俺が迂闊でそして。
「お前はな、強いんだよ」
完全に笑いを収め、奉は湯呑をコトリと置いた。
「…色々と、強いんだ。訳が分からんくらいにな」
「そんなこと云われるの、初めてだが」
「だから、迂闊でいられる」
そもそも危機回避能力とは。そう云って奉はゆっくりと湯呑から手を離した。
「災厄から弱い我が身を守る為に必要な力だからねぇ。お前には必要がないんだろ」
背後の本棚から適当な文庫本を抜き出し、奉は再び本に没頭し始めた。…完全に、『呪い』以前の日常が戻って来た。そのうち、鴫崎が不平たらたらで本のぎっしり入った段ボールを担いで現れるのだろう。俺が親父を継がない、否、継げないことにも、鴫崎が毎日ここに本を運ぶことにも何かの意味があるのなら。
俺はやはり、死ぬまで週3でここを訪れるのかもしれない。諦めにも似た気持ちでそう思った。
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