陰火
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な存在も数えたらもう…気が狂う程の件数だ」
じゃんじゃん火に不知火、しらみゆうれん、たくろう火、天狗火…などとブツブツ呟き、奉は二つ目の銅鑼焼きに手を伸ばした。いつの間に。なんというスピードだ。
「お前が見た『陰火』もまぁ…狐狸の類かもしれんし、鎮守の杜に迷い込んだホームレスの死骸から沸いた燐かも知れんし」
「事件じゃねぇか!」
「折れた桜の枝から沸いた桜の精かも知れんし、お前にかかった呪いの残滓かも知れん。原因は数多、考えられる。そしてそれは俺にも特定はできねぇんだよ」
「お前にも分からない事があるのか?」
「そんなのなぁ…今年の春一番は日本に来る前にチベットの羊飼いの頬を撫でましたか?って訊くようなもんなんだよ。撫でたかも知れんし、撫でてないかも知れん。どっちにしろ春一番は吹いてくるだろ」
「だって…春一番はそれでいいかもしれないが、あんな怪しいものを、そんなあやふやにしていいのか?」
「要は、それよ。お前はどうして原因を特定すべきだと思う?」
「そりゃあ…害のあるものだったら、困るから…」
既に温めになりつつある湯呑を置くと、すっと瑠璃色の急須が滑り込んで来て、茶を注ぎ足した。瑠璃色に添えられた白い手が映える。奉の身の回りの家事をしているのだろうに、なぜこの人の指はこんなにも…
「害があってから、何とかすればいい。…お前の親父さんは、それをよく分かっている」
きじとらさんの指から目をあげると、奉が何やら仔細ありげに俺を見ていた。
「……何だよ」
「親父さんは正直…『こっち側』の事に関しては全く知識がないんだが、実に的確に『よくないもの』を見分ける」
「そうみたいだな。この仕事は向いてないってさ。…継ぐ気はないって云ってんのに」
いかん、さっきほんのり感じた、しこりのような不快感が地味に盛り返してきた。
「そうな、ここの園丁は『そういう人間』にしか出来ないねぇ」
「どうでもいいんだよ。継ぐ気はないんだから」
「そりゃそうだ。お前が園丁を継ぐようじゃ困る」
……は?
「…俺が何処ぞのサラリーマンになるより、ここの園丁になって近くに居た方がお前にとっては好都合なんじゃないのか?」
「いいこと教えてやろうか」
「いいこと?」
「親父さんな…小さい頃から玉群に出入りしているのに、この洞に近づいたことはねぇんだよ」
そう云って奉は口の端を歪めて笑った。
親父の小さい頃を何でお前が…と云いかけてやめた。奉の言葉が全て事実なら、奉は小さい頃の親父を知っているのだ。厳密には、『前世の奉』が。…ていうか奉。
「…じゃあこの洞に日常的に入り浸る俺は親父にとっては…」
奉はもう耐え切れないと云った風に肩を震わせてうずくまり、笑いだした。
「迂闊で迂闊で仕方ない、馬鹿息子だな!あはあはははは…」
「うっわムカつくわこい
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