陰火
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り思っていた。
「ここの守りを勤めてきた先代達が、誰一人としてあの靄に害されていない。それで充分なんだよ。だが」
最近見かけるようになった、参道脇の藪にちらちら見える鬼火みたいなのは多分、やばい。
親父は俺の脇に寄ると、声を押し殺して云った。縁ちゃんも倣うように俺の脇に寄って背をかがめた。…なんだこれ。
「お前みたいな迂闊な奴はどうせ、ひょいひょい近づいて洒落にならない目に遭うんだろ」
―――ぐうの音も出ない。
「俺達の稼業は『あちら側』と『こちら側』の狭間で草を刈る、そういう仕事なんだよ。意外な話だが、『あちら側』も俺達の仕事の意義を分かっている。だから、見て見ぬふりをしてくれているわけだ」
枝の上をちらつく白い靄を、再び見上げる。ただサワサワと蠢くだけだ。…俺が今一人だったら、どうしただろうか。正体を見極めようと、その枝先に近づいたかもしれない。でも。
「……俺はそんなに迂闊か?怪しいものを見かけたら普通、確かめるだろ?」
「迂闊とは云ってねぇよ。普通だよ。普通だから向いてないって云ってんだ。普通程度の好奇心すら命取りになるんだ。…折角向こうさんが見ない振りしてくれてんだ。こっちも干渉しちゃいけない。加えて、ヤバい匂いには敏感でなけりゃいけない。お前って普通な上に、ヤバい匂いには特別に鈍いんだよ」
「……はぁ!?」
「だってそうだろ。お前の周り、ヤバいのいっぱい寄って来てるぜ」
縁ちゃんがプッと噴き出した。…君の兄は『俺の周りに寄ってくるヤバいの』の筆頭なんだが、笑っている場合か。
「……もういいよ。俺は『上』に用があるんだ」
少し不貞腐れた気分で植え込みを跨ぎ参道に戻る。親父は鍔広の麦藁帽を深く被り直し、にやりと笑って暗がりに消えていった。縁ちゃんも誘おうと思い振り返ったが、目が合った瞬間、小さく手を振られた。…奉んとこから帰る途中だったようだ。結局俺は一人、重い足取りで書の洞へ向かう。
「土産は何だ」
―――これだ。数カ月振りに会う友人に対する第一声がこれだ。参道で親父に軽く不愉快な目に遭わせられつつ重い足取りで辿り着いたこの洞で、数カ月振りに聞くのが土産の催促。
「……ほらよ」
文明堂の包みを放ってやった。奉は空中で不器用に受け取ると、ふと眉を顰めた。
「紙包みかい…」
「何で手提げ袋じゃない事に不満を滲ませているんだ!いいだろ銅鑼焼きで!銅鑼焼き好きだろ!?」
「不機嫌なことだねぇ、久し振りに会ったというのに」
くっくっと笑い、奉は傍らに控えていたきじとらさんに包みを渡す。きじとらさんは数カ月ぶりに、俺を凝視した。…何でこんなに凝視するのだ。俺の事忘れたとかじゃないよな…と、少しドキドキする。
「…開口一番土産の催促するお前はどうなんだ。他に何か云うことないのか」
「
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