陰火
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聞くなんて」
家業のことなど興味ないのかと…と口の中でもごもご呟いて、親父は籠を抱え直した。
「…雑木の間引きとか、下草刈りだよ」
「下草刈りって…まだ早くないか」
「根が張る前に少し回っておくと、あとで楽なんだよ」
「へぇ…」
一瞬納得しかけたが、どうも親父が籠をかばうようにしているのが気になり、横目で籠の中を伺った。
「………ワラビ、入ってるぞ」
親父はふいと目をそらした。
「お前も山菜、好きだろう」
なんてことだ。俺の身内が下草刈りにかこつけて他人様の山で山菜採りに勤しんでいたとは。
「なんかこの季節になると食卓に山菜が充実すると思っていたが…」
「玉群の人達は山菜なんか採らないだろう。ちゃんと仕事しているんだから文句いうな」
「それ雇い主に云ってんのか」
植え込みの向こう側で言い争っている俺達を、興味深げに覗き込む少女がいた。
「………よっ」
手刀を軽くピッと立てて、縁ちゃんが木陰の俺達を覗き込んできた。
「お、おう…」
俺はそれとなく親父の籠が隠れる位置に回り込み、手刀を立てて返した。しょぼい鎮守とはいえ一応山の上は寒いだろうに、縁ちゃんは既に少し厚手のショートパンツに黒のハイソックスを着こなしている。膝に鳥肌とか立っていないかとつい凝視しそうになり、慌てて目を反らした。
「わ、おじさんが着てるの、去年流行ったノルディックのカーディガンでしょ?かっこいいー」
「そ、そうかな」
「んん、男の人でこの色着こなしてるの、初めて見たー」
親父は満更でもないような照れ笑いと共に顔を反らし、俺の方をドヤ顔でチラ見し始めた。
……腹立つ。
だっさい親父のドヤ顔にも、適当なこと云っておっさんを調子付かせる縁ちゃんにも。ずばっと否定してくれる手厳しい女子が周りにいないから、このおっさんはダサさを拗らせて水子を慰める地蔵みたいなファッションにまで行きついてしまったのだ。自分の責任がどれだけ重大か分かっちゃいないのか、この女子高生は。
「……桜、と云ったな」
ドヤ顔を若干残したまま、親父が目を細くした。
「ああ。咲いてただろ?」
「この辺りはソメイヨシノの開花宣言すら、まだだろう」
「そうだけど…現に咲いてただろ、神社の周りは」
―――咲いてねぇよ。俺はさっき見て来た。
親父がそう、低く呟いた。
…何を云っているんだ。現にこの石段を縁取る桜は白い花を咲かせているじゃないか。俺は再度、鳥居が途切れた辺りから連なる桜の木を見上げた。
「…ほら、白い花が」
「そんなはずあるか」
親父は古い帽子の鍔を軽く弾くと、樹上の『白い花』を睨み付けた。
「ここの桜は『八重桜』だぞ」
―――八重桜…!!
そ、そうだ何故俺は忘れていたんだ。ここの桜は山桜でもソメイヨシノでもない、それらが終わった頃に咲
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