第五百九十七話 毎日すべきことその三
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「心にもね」
「そうだな」
「美味しくないと思ったものを飲んでも」
そうしてもというのだ。
「本当にね」
「いいことはないな」
「絶対にそうだね」
「というか何で飲んでたんだ」
フックはブランデーの味を楽しみつつ言った。
「それで」
「何か戦いらしいよ」
「戦い?」
「太宰も言ってたけれど」
「美味くないのに飲んでいるってか」
「お酒をね」
「それは戦いか」
「無頼派の人達ってね」
こう呼ばれる作家達はだ。
「その時の世の中の考えや文壇に反発していてね」
「考えや文壇への戦いか」
「その為に飲んでいたらしいよ」
「酒を飲むことも戦いか」
「飲んでインスピレーションを得ていたかもね」
作品のそれをというのだ。
「若しかして」
「それで飲んでいたか」
「そうかもね」
「そうなのか」
「僕はこうも思うよ、それかあえて滅茶苦茶に生きて」
破天荒で破滅的にというのだ。
「世の中の倫理とかに反発してみせていたとか」
「何でも反発だな」
「アンチテーゼかな」
「それか」
「そう、当時の世の中の考えや文壇へのね」
「そうなんだな」
「まあそれでも当時物凄い勢いだった共産党に入った人もいるけれど」
田中英光である、太宰の墓前で自殺した作家である。
「そうした考えがあって」
「反発してか」
「お酒もね」
「まずいと思いながらか」
「飲んでいたかもね」
「そうなんだな、しかしな」
フックはもう寝袋から出ている、ブランデーを出した時点でそうしていて菅と向かい合って胡座をかいて飲んでいる。下には座布団がある。
「そんな飲み方はな」
「よくないよね」
「本当に身体に悪いからな」
だからだというのだ。
「絶対にするものじゃないな」
「心にも悪いしね」
「ああ、まずいならな」
「戦いでもね」
「飲まないことだ」
「それがいいね」
「お酒はそんなものだ」
楽しんで飲むものだというのだ。
「無茶な飲み方はしないでな」
「楽しんで飲んでね」
「そしてだ」
そのうえでというのだ。
「楽しい思いをすることだ」
「憂いがあるならそれで紛らわせる」
「そうするものだ」
「李白みたいにね」
菅はウイスキーを無表情で飲みながら中国唐代を代表する詩人の名前を出した。
「そうすべきだね」
「そう言えば李白は楽しんで飲んでいたな」
「酒仙みたいにね」
尚李白は詩仙と呼ばれていた。
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