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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第58話 エル=ファシル星域会戦 その2
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が、こういう職業軍人らしくない部隊というのは後始末が面倒での。おとなしく撤退してくれればいいんじゃが、大抵は組織だって撤退することはないんじゃ」

 職業軍人ではない貴族が指揮する部隊であれば、撤退というより逃散という形になるだろう。それだって両翼の包囲が間に合えば逃がしはしない……はずだが、我々は高速機動集団と独立部隊の即席連合部隊。訓練も砲撃に集中し、部隊移動訓練はそれほど時間を掛けていない。爺様は練度を火力統制で補う思考の持ち主ゆえに、艦隊機動には過剰な期待をしていないのだろう。狂信的艦隊機動戦原理主義過激派である俺としてはそれでいいのかと思うが、参謀の役目は自分のドクトリンを上官に主張することではなくその見識でフォローすることだ。そして味方が付いていけないような作戦を立てるのは恥ずべきことだろう。

 そして帝国軍の中央・後衛部隊が『組織だって』撤退しないというのは、脱落艦が多数出るということ。それは三重の意味で危険をもたらす。一つはゲリラ戦による星系掌握妨害。もう一つは宇宙海賊化による星系治安の悪化。最後に偵察艦化による諜報活動の活発化。そのうち今回はゲリラ戦と諜報活動は気にすることはない。両方とも粘り強い指揮官がいない限りただの標的だ。問題は最後の宇宙海賊化。貴族の坊ちゃんが海賊になるのではない。指揮統制の崩壊による海賊化だ。しかも『制式軍艦』をもって。間違いなく鎮圧には膨大な時間と火力を必要とすることになる。誰だよ。爺様が戦略家ではなく戦術家なんて言ったのは……そういえば俺か。

 ともかくそれを防ぐには敵中央・後衛部隊の組織を崩壊させずに完全包囲に持込み、降伏か殲滅を狙うしかない。となると、ただ両翼を伸ばしても機動力不足と前衛による妨害によって包囲網は未完成に終わりかねない。ではどうやって? ダラダラと戦闘を続けていればこちらの被害も軽視しえないものになるが……

「独立部隊毎の戦闘指揮能力にはある程度期待してもいいのではないでしょうか」
爺様にモンシャルマン参謀長が何気なくそう進言する。爺様もそれに鷹揚に頷くが……これは俺に対する参謀長の誘い水だ。ただの包囲網ではダメ。もっと広範囲に、しかも稼働砲門数が多くなるよう効率的に。
「司令官閣下。漁網を広げるには二隅ではなく四隅で。しかも素早く、ということではいかがでしょうか?」
「しかししっかり包まないと魚は逃げてしまうぞ?」
「網の底を深くすれば、いかがでしょう?」
「うん? ……ふむ、ジュニア。やはり網の底は丸い方がいいかの?」
「本来はそうするべきでしょうが、今は」
「二度手間じゃからの。よかろう。貴官の意見を採用する。折り返しのタイミングは儂が判断しよう。三〇分あれば、計算できるな?」
「ありがとうございます。一五分いただければ」
「よし、ジュニアすぐに
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