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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第58話 エル=ファシル星域会戦 その2
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系に進入してからの帝国側の軍事行動が、あまりにも『とろくてお粗末』なのだ。偵察している第八七〇九哨戒隊の一隻も発見できない。逆に強行偵察艇を出すタイミングが遅すぎる。三つに分かれていた艦隊を一つにまとめて(そんな情報すら哨戒隊に観測されている)おきながら、少しでも有利になるよう戦場を選択することなく、根拠地から殆ど移動もせずに正面砲戦をダラダラと続けている。はっきり言えば真面目に戦争をやるつもりがないとしか思えない。

 推測であっても確信できる理由は帝国軍の戦列の分析結果を見た時だ。有力な戦艦、すなわち敵の旗艦ないし上級指揮官が座乗しているであろう艦艇の位置をピックアップしていた時、なぜかその周辺に宙雷艇やミサイル艦が雑然と並んでいたことを確認した。まさにキフォイザー星域会戦のリッテンハイム軍そのものの光景。かろうじて前衛と思われる一〇〇〇隻の部隊戦列は戦理に則っており、現在同盟軍と戦っているのも彼らだ。実際に砲火を交えている相手とはいえ、この前衛部隊の指揮官には同情を禁じ得ない。

「では帝国側の事情が貴官の言う通りであるとして、我々がなすべきことはなにかね?」
「攻勢強化であると、考えます」
「具体的には?」
「両翼を伸ばし、敵を半包囲から全包囲へと追い込みます。まともに戦っている前衛部隊はそれを阻止するようアクションを取るでしょう。一つは中央突破。あるいは陣形展開による包囲阻止。いずれを選択しても、我々第四四高速機動集団が形成している三つの円錐陣を急速前進させ、この前衛部隊を『串刺し』にいたします」
「その戦術における利点はなんじゃ?」

 メインスクリーンから視線を逸らさず、モンシャルマン参謀長との会話に爺様は割り込んでくる。その口調は俺に対する質問というよりは、考えていたことに対する傍証の確認といったものだ。

「貴官はこのままでも戦局は有利に運ぶであろうと判断した。それを破棄して積極策を支持する根拠も示した。じゃが利点は示しておらんぞ?」
「敵の事実上の主戦力である前衛部隊を壊滅させることにより、組織戦闘時間の大幅な短縮が見込まれます。味方の被害、惑星攻略戦と補給の時間をより多く獲得できます」
「じゃがその場合、敵の中央・後衛部隊はどうする?」
「どうすると言われましても、両翼包囲下により殲滅は可能かと思われますが……」
「ジュニアの言っている前提条件に間違いはない。即席の攻勢作戦も上出来じゃ。儂の目から見ても敵の前衛と中央・後衛の連携は極めてお粗末。しかし儂のみるところ包囲しようという素振りを見せれば、逆に前衛部隊が遅滞戦術を行い、その隙に中央・後衛部隊が撤退していく可能性が高いの」
「……それは軍事組織の常識ではなく、別の論理が理由でしょうか?」
「そういうことじゃ。長いだけで大したことのない経験からじゃ
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