暁 〜小説投稿サイト〜
緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──
最高に最低な──救われなかった少女 V
[9/9]

[8]前話 [9] 最初 [2]次話
に生きた方がいい。自分に正直になってね。もう強がらなくていいんだよ。君が思っているより、君の居場所はそんなに狭くはないから。峰理子を認めているのは、きっと、如月彩斗だけでは──ないはずだからね」
「……うん。ありがと。頑張る」


そうして、その如月彩斗は徐に──いつものように緩慢と腰を上げた。理子を見据えたその瞳の中に、あらゆる感情の凝縮がされていたのを、理子は見逃していない。
彼はあの時のように蠱惑的な、甘美な声色で、一語一句を紡いでいた。やはり最高純度の衷心が、その言葉の裡面に見え隠れしている。恐らく彼が話の最後に伝えたかったことは、この言葉だったのだろう。そんな風を思わせる行動を、彩斗はとっていた。


「……申し訳ないけれど、そろそろ席を外させてもらうね。恐らく俺の容態の安定したことを、担当医はまだ知らないだろうから。受付に行って伝えてくる」
「分かった。気を付けてね?」
「ふふっ、大丈夫だよ。ありがとう。明日には退院したいところだね」


「それに──待ってくれてる人も、居るから」そう彩斗は付け加えた。
刹那に、彼が見せた気恥しそうな、それでいて穏和な笑みで、理子はその人が誰であるかをもう察している。だからこそやはり、この2人はお似合いなのだとも、そうも思った。


「じゃあ、その待ってくれてる人のためにも、早く退院しなきゃね」
「うん。きっと」


そうして、如月彩斗と峰理子とはここで離散した。彼は部屋の扉を通り抜けると、その扉を閉める一刹那に何か思い至ったのか、微笑をたたえながら小さく理子に向けて手を振る。


「もう暗くなってきたから、早く家路に着くこと。気を付けて帰ってね」
「分かった。バイバイ」
「うん、さようなら」


お互いに扉を挟んで手を振って、振り返した。

そうして理子は、窓硝子のその向こうへと目を遣った。宵に暮れた五月空には、端白星が瞬いていた。そうして東京湾は、その宵より深い宵の色だった。深淵を覗き込んでいるような、そんな錯覚に襲われる。泡沫のように浮かぶあの輝石だけが、唯一の救いだった──。
[8]前話 [9] 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ