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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──
最高に最低な──救われなかった少女 V
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に生きた方がいい。自分に正直になってね。もう強がらなくていいんだよ。君が思っているより、君の居場所はそんなに狭くはないから。峰理子を認めているのは、きっと、如月彩斗だけでは──ないはずだからね」
「……うん。ありがと。頑張る」
そうして、その如月彩斗は徐に──いつものように緩慢と腰を上げた。理子を見据えたその瞳の中に、あらゆる感情の凝縮がされていたのを、理子は見逃していない。
彼はあの時のように蠱惑的な、甘美な声色で、一語一句を紡いでいた。やはり最高純度の衷心が、その言葉の裡面に見え隠れしている。恐らく彼が話の最後に伝えたかったことは、この言葉だったのだろう。そんな風を思わせる行動を、彩斗はとっていた。
「……申し訳ないけれど、そろそろ席を外させてもらうね。恐らく俺の容態の安定したことを、担当医はまだ知らないだろうから。受付に行って伝えてくる」
「分かった。気を付けてね?」
「ふふっ、大丈夫だよ。ありがとう。明日には退院したいところだね」
「それに──待ってくれてる人も、居るから」そう彩斗は付け加えた。
刹那に、彼が見せた気恥しそうな、それでいて穏和な笑みで、理子はその人が誰であるかをもう察している。だからこそやはり、この2人はお似合いなのだとも、そうも思った。
「じゃあ、その待ってくれてる人のためにも、早く退院しなきゃね」
「うん。きっと」
そうして、如月彩斗と峰理子とはここで離散した。彼は部屋の扉を通り抜けると、その扉を閉める一刹那に何か思い至ったのか、微笑をたたえながら小さく理子に向けて手を振る。
「もう暗くなってきたから、早く家路に着くこと。気を付けて帰ってね」
「分かった。バイバイ」
「うん、さようなら」
お互いに扉を挟んで手を振って、振り返した。
そうして理子は、窓硝子のその向こうへと目を遣った。宵に暮れた五月空には、端白星が瞬いていた。そうして東京湾は、その宵より深い宵の色だった。深淵を覗き込んでいるような、そんな錯覚に襲われる。泡沫のように浮かぶあの輝石だけが、唯一の救いだった──。
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