第三章 リベン珠
第10話 イサミ・クロガネと秘密の通路:前編
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「ふんふ〜ん♪」
鈴瑚との弾幕勝負に勝ち、鈴仙と共に道中を進む勇美のご機嫌は上々だったのである。
その理由は、彼女が鈴瑚から貰った団子にあったのだ。それは鈴瑚から旅の餞別にと受け取った代物なのである。
「勇美さん、嬉しそうですね」
「それはもう、鈴瑚さんからお団子を貰えたんですよ。これを旅すがら食べる事を考えると、心踊るってものですよ♪」
「まあ、確かに鈴瑚が作る団子は絶品ですからね〜」
言って鈴仙は勇美が浮かれる気持ちを受け止めるのだった。
そう、鈴瑚はその自身の能力を有効に使うために、団子を購入するだけの立場に留まらず、自分で作る術を身に付けていったのである。
そして、鈴瑚の力で作るが故に、その団子には彼女の能力の断片が籠められるのだ。つまり、彼女の団子には他の者が食べても僅かにだが強くなれる性能が備わっているのだった。
その事も踏まえて鈴瑚は勇美達に自前の団子を渡したという事なのである。
だが、勇美をいつまでも浮かれさせたままにしておいてはいけないと鈴仙は思い、口にする。
「でも勇美さん。ここからは気を引き締めて下さいね」
「はい、勿論です。何たって今から月に向かうんですからね」
勇美が言うその事が真実なのであった。これから二人は月へと通じる玉兎が有する秘密の通路を使いに行くのだから。
そう話をしている内に、二人は目的の場所へと辿り着いた。
そこは湖の外れに存在する人一人よりも多少大きい入り口の洞穴であった。そして鈴仙は呟く。
「勇美、誰もいないですよね」
いつになく慎重になる鈴仙。何せ月という地球外へと通じる、大それた話を実行してしまえる場所なのだ。だから彼女が神経を張り巡らすのも当然なのであった。
「ええ、バッチリです」
勇美もそんな鈴仙の気持ちを汲み取り、念入りに辺りを見回して誰の気配も存在しない事を確信する。
今は日が昇り始めて辺りに心地よさが彼女達の身を包むのだった。この瞬間こそ心理的にも科学的にも人が一日を快活に過ごせるようにさせるものだからである。
だが、今はその自然が生み出す悦楽に浸っている時ではないのだ。勇美は名残惜しいと思いながらも、これからの目的を再確認する。
「この先にある場所を使えば月に着くんですよね」
「そういう事ですよ。──誰もいないようですし、早速中に入りましょう」
「はい」
互いの意思を確かめあって二人は洞穴の中に入っていった。
洞穴の中は、その宿命とでも言うべきかしんと静まり返り、時折内部に溜まった水滴が滴り落ちてピチョンという耳に残る音を奏でていた。
要は……、はっきり言って不気味の一言に尽きるのだった。このような場所に好んで入ってくる者は幻想郷広しといえども少ないだろう。
加えて、ここは外部との関わりを極力断っている妖怪の
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